ビジョンは経営理念の一部でしかない。
浸透する理念の作り方と事例

企業が目指すべき指針であると同時に、企業の存在意義を示す重要な役割を担う「経営理念」。経営理念は、企業としての行動規範を社会や顧客に対して表明する役割を担っており、「企業の認知度を社外に広める」ほか、「社内に一体感を与える」といった社員の行動指針、モチベーション向上といった効果も発揮します。

今回は、経営理念を構成する戦略の「階層」の視点からビジョンなどとの違いを明確にし、経営理念を定めることによって得られるメリット、策定や刷新のポイントを事例とともに解説します。

企業経営における戦略の「階層」とは

企業によって差異はありますが、経営理念はよく「ミッション」・「ビジョン」・「バリュー」の3つの要素からなる“階層”によって構成されます。それぞれ経営理念と混同されやすい要素のため、各要素の意味や役割を把握した上で、経営理念との違いについて正確に理解しましょう。

ミッション(Mission)「社会的使命・存在意義」

最上部にある「ミッション」とは、企業が果たすべき使命や目的です。同時に、企業の存在意義や本質的な価値観を示す要素でもあるため、ミッションは企業活動における「原動力」とも言いかえられます。ミッションの内容が不明瞭な企業は、次に紹介するビジョンやバリューの根幹を成す要素であるため、経営理念を構成する3つの要素の中でも特に重要です。

ビジョン(Vision)「目指すべき方向性・未来像」

中間にある「ビジョン」は、ミッションを実現したうえでの具体的な未来像です。言い換えると「ミッションの実現に向けて、中長期的に定めたイメージ」であり、数値や期限を設けた具体性を持った目標です。

バリュー(Value)「価値基準・判断基準」

最下部の「バリュー」は、各社員が発揮すべき価値を言語化した要素です。バリューは「価値観を体現したもの」として具体的な行動指針が示されており、ミッションやバリューと整合性が取れるものが理想的とされています。

以上の3つが経営理念を構成する要素です。使命や存在意義であるミッションが企業にとっては最重要であり、ミッションを達成した先にある姿がビジョンです。そして、社員一人ひとりが日々発揮する価値の行動指針であるバリューが、ミッションとビジョンの達成を支えています。

経営理念とは?ミッション・ビジョン・バリューや企業理念との違い

では、「戦略階層」で構成されている経営理念とは何でしょうか。混同されやすい言葉との違いを含め解説します。

経営理念とは

経営理念とは、企業が示す組織が目指すべき普遍的な指針・考え方となる価値観です。企業によってはクレド(信条)やフィロソフィー(哲学)と呼ぶこともあり、日常の具体的な仕事内容を示したものというより、抽象的で道徳的な意味合いが含まれることが多いです。経営理念は社会・顧客・社員に対して掲げるため、経営理念の実現に向けて活動することは、社会的信頼の獲得や社員のモチベーション向上にもつながります。

ミッション・ビジョン・バリューとの違い

経営理念に、より具体性を持たせた企業の存在意義や方向性・行動指針が、「戦略階層」3つの要素、ミッション・ビジョン・バリューです。つまり、経営理念は「戦略階層」によって構成されています。

しかし、企業経営を続けるにあたって、創業時に定めた経営理念や戦略階層の要素が時代にそぐわなくなるケースもあるでしょう。経営理念や戦略階層の要素は、社会のニーズに合わせて変更できます。こうした企業の価値観や行動指針を変更することは、社会や社員への影響は大きいと考えられるため、変更のタイミングや内容については、慎重な判断が必要です。

企業理念との違い

これまで解説してきた「経営理念」と「企業理念」に明確な違いは定義されていません。この2つを同一視している企業もあれば、分けて考えている企業もあります。

これらを分けて考えている企業では、経営者としての考え方が「経営理念」、企業体としての考え方を「企業理念」として使い分けているケースが多いようです。つまり企業理念は、創業者が起業時に掲げた「企業としての価値観」であり、経営理念は企業理念を実現するために経営者が設定した「経営方針や行動指針」と差別化しています。

経営者の変更や時代の変化によって「経営理念」が変わることはよくありますが、企業全体の価値観である企業理念の変更は、経営理念の変更よりも大きな意味を持つため、非常に慎重な判断を迫られます。

判断基準やモチベーション向上をもたらす。
経営理念が浸透する効果

企業理念を実現するためには、社員に向けた経営理念の浸透が重要となってきますが、具体的にはどのような効果があるのでしょうか。ここで代表的な2つの効果をご紹介します。

判断基準が明確になるため、全社員がスムーズに意思決定できるようになる

経営理念は、企業に関わる全ての社員が同じ方向に進むための判断基準となります。企業では、現場の一般社員から中間管理職、経営層までの全員が、正解のない選択を迫られるケースが数多くあります。この時の判断基準が、企業理念や経営理念です。

「その選択は、企業が目指す未来像につながるか」という考え方と判断基準が全社員に浸透していれば、スムーズかつ正確な意思決定ができ、組織としてのパフォーマンスを最大化させます。また理念に共感している社員は、顧客への価値提供にも意欲的に取り組めるようになるため、利益向上や企業ブランディングといった副次的な効果も期待できるでしょう。

社員のモチベーション向上や離職率低下が期待できる

「自分は今何のために働いているのか」、「この仕事は社会にとってどんな意味があるのか」。経営理念によってその意味や役割を明確にすることは、社員に「働く意義」を実感させ、モチベーション向上につながります。

働く意義の浸透が特に効果的な対象は、若手社員です。高校や大学の卒業者が入社3年以内に企業を退職する割合は3割程度とも言われており、企業の未来を担う若手の退職は、企業にとって大きな損失となります。経営理念の浸透を通じて「働く意義」を実感してもらうことで、こうした若手の離職率低下も見込めるでしょう。

浸透する経営理念を作るときに
意識すべきポイント

経営理念が意思決定の判断軸やモチベーション向上の効果を発揮するためには、理念を現場に浸透させなければなりません。次は、現場に浸透する経営理念を作るポイントを解説します。

経営理念は3つの追求要素を踏まえて簡潔に表現する

企業の存在意義は企業理念の実現ですが、その目的は、利益を上げて企業を成長させつつ持続させることです。しかし、企業は社会性を持っており、顧客を不幸にしたり、環境を著しく破壊したりする反社会性を持った活動では、持続的な活動は見込めないでしょう。企業活動の根幹を成す価値観である理念には、以下のような「企業が追求すべき要素」が含まれていることが望ましいとされています。

  • 人間性の追求:企業にかかわるすべてのステークホルダーを尊重し、幸福にできるか
  • 社会性の追求:CSR(企業の社会的責任)を理解し、実践できているか
  • 経済性の追求:技術や品質の優位性があり、利益を生めるか

企業理念や経営理念は上記3つの追求要素を踏まえた上で、一文で簡潔に示しましょう。長くわかりにくい理念は、社内外に浸透しにくく、判断基準やモチベーション向上の効果を十分に発揮できなくなってしまいます。

ミッション・ビジョン・バリューを具体的にする

本記事の冒頭で解説した、戦略階層の要素であるミッション(使命)・ビジョン(未来像)・バリュー(価値基準)を具体的に設定しましょう。経営理念だけを定めても、それを体現するための目標や指針がなければ、現場の社員にとって、経営理念はただの絵空事のようにしか捉えられなくなってしまいます。

長い目で見据えるミッションや、中長期的な目標であるビジョン、日々の行動指針となるバリューを、経営理念を紐づく形で定めることで、理念浸透にもつながるでしょう。

全社員を巻き込みながら策定する

また、トップダウンで経営理念を浸透させるには限界があります。社員が自ら理念に共感できる機会を作ることで、ボトムアップで現場への浸透を促せます。近年は、理念を現場に浸透させるために、ワークショップを開催したり、日々の行動指針を行う上での信条である「クレド」を策定したりする手法が人気です。

情報発信の方法も多様化しており、社内の情報を統合するイントラネットや、ウェブサイトを活用した社内報など、複数のメディアを活用して社員にメッセージを届きやすくする試みも行われています。

運用しながら定期的に見直す

もし経営理念が浸透している状態でも、さきほど解説したように、社会的なニーズが変われば共感を得にくくなってしまいます。そのため、定期的に理念を見直し、時代の潮流に沿う理念に変更する必要がないか検討するとよいでしょう。

経営理念が浸透している企業の事例

最後に、理念が現場に浸透している企業の事例をご紹介します。こうした企業はどのような理念を掲げ、現場に浸透させる取り組みを行っているのでしょうか。

「社員第一」が高い顧客満足度に繋がる。サウスウエスト航空

世界で最も従業員を大事にしているとも言われている企業が、アメリカの格安航空会社サウスウエスト航空です。同社では、「社員第一」をひとつの理念として掲げています。実際に、航空業界が不況に陥り、ほかの会社が従業員の一時的な解雇を行うなか、同社だけは解雇に踏み切りませんでした。

また、社員自身が仕事を楽しみつつ顧客の問題を解決する行動指針も大切にしているため、たとえマニュアルに記載されていなくても、その行動指針を取った従業員を褒める文化があります。こうした対応がサウスウエスト航空の高い顧客満足度を支えているのです。

参照:Southwest Careers

違いを明確に理解したうえで経営理念を浸透させる

経営理念は、経営の視点では企業の存在価値や社会的な姿勢を表明する役割を持ち、現場社員の視点では、物事の判断基準やモチベーション向上にかかわる、重要な指針であり価値観です。理念を現場に浸透させていくことが、企業の成長につながります。

しかし、ミッション・ビジョン・バリューといった混同しやすい要素もあり、それぞれの違いを正しく理解できなければ、浸透させるために効果的な施策を講じるのは難しいでしょう。こうした違いを明確に理解したうえで、改めて経営理念の見直しや浸透させる手法を検討しましょう。

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外部環境の変化が激しい今、社員が会社で働く際のよりどころとなる企業理念やビジョンの浸透が、今まで以上に重要になります。
ここでは「会社のビジョンに関する意識調査2020」の結果から、ビジョン浸透の実態と社内に浸透させるためのポイントについて探ります。

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