少子高齢化などによる採用競争の激化に伴い、今まで通りの採用活動だけでは、優秀な人材に入社してもらうことが難しくなっています。このような状況下で、就活生に選ばれる企業になるには、「この会社で働きたい!」と思ってもらえるよう他社との差別化を図り、戦略的に自社をブランド化させ、適切な情報発信をしていく必要があります。そのための取り組みが「採用ブランディング」です。今回は、採用ブランディングに取り組む必要性やメリットとデメリット、実践する際のステップを解説していきます。
採用ブランディングが今、注目されている理由とは
コロナ禍前の水準に戻り始める人手不足の水準
少子高齢化に伴う労働力人口の減少により人材不足が続く中、企業が求める人材の採用はますます難しくなっています。そして、この問題は今後さらに深刻化が進んでおり、多くの企業が人手不足に陥る可能性が高いといわれています。少し前まではコロナ禍で経済活動が制約されていて、人手不足が一時的に落ち着いていましたが、アフターコロナに向かう今、人手不足はコロナ禍前の水準に戻ろうとしています。下記の図の通り、2022年4月時点における従業員(正社員)の過不足状況を調査した結果によると、「不足している」と回答した企業は45.9%で、2019年の50.3%に近い水準にまで上昇。業種で見ると「情報サービス」が 64.6%で最も高く、次いで「メンテナンス・警備・検査」が60.1%、「建設」が59.4%と続き、多くの業種で人手不足が高い水準が続いていることがわかります。
また全国の民間企業の求人総数は、前年の67.6万人から70.7万人へと3.1万人(+4.5%)増加。対して学生の民間企業就職希望者数は、45.0万人から44.9万人へと0.1万人減少(▲0.3%)という結果で、民間企業就職希望者数に対して、求人総数が25.8万人の超過需要となっています。また、求人倍率についても2023年卒では1.58倍と、依然として求職者側の売り手市場が続いています。
内定辞退率は高止まり。複数内定を獲得する学生も
この売り手市場を背景に、多くの就活生が複数の内定を獲得しており、本命企業から内定が出た段階で、志望順位が高くない企業の内定を辞退する傾向にあります。2022年に卒業した学生の12月時点での内定辞退率は62.4%でしたが、2023年卒の同時期では64.6%に上昇しており、今後より売り手市場が加速すればさらに内定辞退率は高まっていくでしょう。この調査結果は大手企業も含めた全国平均であるため、中小企業や地方の企業における内定辞退率は、さらに高い可能性もあります。
このような状況の中、優秀な人材の獲得競争がより激化しており、企業側が社員を選んでいた時代から、就活生側から選んでもらう時代に移行しています。そこで中小企業こそ取り組むべきなのが、採用ターゲットに対して、同業他社ではなく自社を選んでもらうための「採用ブランディング」です。採用ブランディングは、自社の価値や魅力を伝えて就活生の共感・信頼を獲得し、「この会社で働きたい」というファンを増やす採用戦略です。
自分に合った情報を取捨選択するZ世代
今、就職活動を行っているZ世代は、物心がついたときからすでにデジタル技術が発達しているデジタルネイティブ世代。1日あたりのメディア総接触時間は、20代女性が225.8分(約3時間45分)、男性では223.7分(約3時間43分)にも上り、メディア総接触時間の構成比も7~8割がスマートフォンやタブレット端末、パソコン等のデジタル機器で占められています。また、SNSの普及により手軽に情報発信できるようになった反面、就活生側もこれまでよりはるかに多くの企業の情報を受け取っています。Z世代は膨大な情報の中から、自分に必要な情報を選別することも得意です。そのZ世代の就活生に自社を選んでもらうためには、採用したいターゲットを明確にし、自社の魅力を確実に届ける採用ブランディングを行う必要があるのです。
また、Z世代の就活生に対して行った調査によると、約9割もの就活生が就活を通じて「企業や商品のイメージが良くなったことがある」と回答しています。その一方で「悪くなったことがある」との回答も6割以上に上っており、就活により企業イメージは大きく左右されることがわかっています。つまり、Z世代は、就活を通じてその企業のことを好きになるし、また嫌いにもなってしまうということです。採用ブランディングでは、就活生が企業を認知してから応募や面接をするまでの体験を向上させることができ、これは企業ブランディングを高めることにもつながっていきます。
採用ブランディングを行うメリットと留意点
採用ブランディングには様々なメリットがあります。ですが、メリットをしっかりと生み出すためには、留意点についても意識しなければ、せっかく採用ブランディングに取り組んでもネガティブなイメージをもたらす結果となってしまいます。ここからは、採用ブランディングにおけるメリットと留意点について解説していきます。
採用ブランディングのメリット
・企業の認知向上
採用ブランディングに取り組むことにより、これまで接点がなかった就活生に対しても自社の情報を届けることができます。そのため、企業の認知度向上につながり、応募先として検討してもらえる確率が上がります。また、企業名の認知度が向上することで、就活生だけでなく一般の消費者からの認知度も高まるため、売上増につながるといったメリットもあります。
・応募者数の増加
自社の認知度が上がることで、応募者数の増加が期待できます。自社で働くことの魅力を伝えることによって入社後のイメージ「この会社で働きたい!」と考える就活生が増え、応募者数の増加が期待できます。応募者が増えれば、優秀な人材を確保できる確率も高くなります。
・応募者の質の向上
採用ブランディングによって自社の価値観やビジョン、カルチャーなどを適切に伝えることができれば、自然と自社にマッチした人材が応募してきてくれるようになります。自社が求める人物像を応募者自身が理解し、自分と合うか合わないかを検討した上で応募してくれるからです。結果として、応募者の質が向上することにつながります。
・採用コストの最適化
自社にマッチした応募者が集まることで、内定辞退や早期離職を低減させることができるため、結果として採用コストを下げることにもつながります。また、採用ブランディングによって自社のファンが増えれば、「あの企業の選考がよかった」などと口コミやSNSなどでポジティブな情報が自然と広まっていく可能性もあります。採用ブランディングに取り組むことでよい情報が拡散され、自然と人が集まるサイクルができれば、これまで採用にかけていたコストを大幅に削減することも可能です。
・競合企業との差別化
採用ブランディングにより他社との違いを明確に打ち出すことで、競合他社ではなく「この会社で働きたい!」と感じてもらうことができます。そう感じてもらうことで、他社よりも有利に採用活動を進めることができます。
・社員のモチベーションアップ
採用ブランディングは、既存社員のモチベーションを向上させることにも寄与します。採用ブランディングを行う過程で、自社の事業内容や企業理念、社風などの魅力を再認識することができ、組織への帰属意識が高まります。また、採用ブランディングによって、自社の知名度が高まったり、よいイメージが定着したりすれば、社員の社会的評価も上がります。そうすることでモチベーション向上はもちろん、「自分もそのブランドに関わる一員である」と、意識も高まっていくはずです。
採用ブランディングを行う上での留意点
・時間がかかる
採用ブランディングは、取り組んだからといってすぐに効果を発揮するものではありません。成功させるためには継続的に情報発信を行い、多くの方に自社を認知させる必要があるため、最低でも年単位の時間が必要になります。
・継続した取り組みが求められる
採用ブランディングでは一度情報を発信したら終わりではなく、継続的に発信して自社ブランドを打ち出す必要があります。また、情報がアップデートされていないと、マイナスのイメージを持たれてしまうこともあります。常に新しい情報発信を発信してく必要があるため、採用ブランディングにおける運用体制の構築も求められます。
・全社規模で取り組む必要がある
採用ブランディングは、全社規模での協力が求められます。発信する内容と実際の現場にギャップが生まれてしまうと、早期離職につながる恐れもあります。経営層や人事部だけで取り組むのではなく、全社員を巻き込んで発信していくことが欠かせません。また、全社規模で取り組む際には社内で意思を統一しておくことも重要です。社内での意思にズレがあると、発信するメッセージにブレが生じてしまい、採用ブランディングが機能しない恐れもあります。
・感覚で進めてしまうとブランド毀損につながる
もしブランディングに失敗してしまうと、効果がでないだけでなく、間違った印象を世の中に与えてしまうこともあります。また、就活生だけではなく、取引先や顧客、一般消費者に対してもネガティブな印象を与えてしまう可能性もあります。感覚だけで進めるのではなく、誰に・何を・どうやってメッセージを届けていくのか、事前に設計を立ててから進めていく必要があります。具体的なステップについては、次の章で解説していきます。
採用ブランディングを進めるための7ステップ
採用ブランディングは腰を据えて取り組むことで、多くの企業で課題となっている採用の諸問題を解決することが可能となります。ここからは、実際に採用ブランディングを行う際、どのようなステップで取り組むべきなのかを解説していきます。
1.自社を知る
自社のアピールポイントがわからなければ、就活生へ訴求することができません。まずは現在の事業内容や今後の事業計画、競合他社と比べたときの自社の魅力やアピールポイントなどを把握します。また、必要以上によく魅せるのではなく、自社のありのままの姿を伝えることで就活生の共感を呼ぶこともあります。自社の魅力だけでなく、現在抱える課題を抽出しておくことも必要です。
2.求める人物像を明確にする
採用活動を行う際には、指標の一つに「応募者数」を設定している企業も多いのではないでしょうか。ですが、応募者数ばかりを求めてしまうと、ミスマッチな人材からの応募が増え、結果として選考に手間がかかってしまいます。したがって、自社ではどのような人材を採用すべきなのか、具体的な人物像を明確にすることが大切です。能力やスキルのほか、どんな価値観を持った人材であれば自社にマッチするのかなど、様々な観点から人物像を具現化していきましょう。ここで明確化された人物像によって、アピールすべきポイントや届けるメッセージ、情報発信の手段なども異なるため、重要なステップとなります。
3.就職活動者を知る
ここ数年で採用手法のトレンドは大きく様変わりしています。これまでは主に就活サイトを使った採用や学内セミナー、合同企業説明会など、企業側が就活生を待つ採用が一般的でした。ですが、ここ直近の就職活動では、企業が直接求める人材にアプローチするダイレクトリクルーティングやSNSを使った採用活動なども活発になってきています。このように採用手法が多様化しているため、就活生を惹きつける採用活動を行うためには、就職活動をしている学生を深く知ることも必要です。新入社員や内定者に行ってきた就職活動の様子を聞いてみたり、就職中の学生を紹介してもらいインタビューしてみるのも、リアルな就職活動を知るには一つの手です。
4.情報の整理
自社の魅力や求める人物像、就活生を分析した後は、届けるメッセージを言語化していくために情報を整理していきます。求める人物像に合致した人材から応募してもらうためには、どのような情報を発信していくべきかを吟味しながら整理していきましょう。
5.採用コンセプトの設計
採用コンセプトとは採用活動の軸となる考え方で、「誰に」「何を」「どんなメッセージ」で「どんな手段」を使って発信していくのかを設計することです。採用コンセプトを明確にすることで、採用活動に一貫性をもたらすことができます。また、採用サイトに登場する社員や説明会に登壇してくれる社員、面接官といった社員一人ひとりが採用コンセプトに沿った言動をしていることが、就活生からの信頼獲得につながっていきます。採用コンセプトが曖昧なまま採用ブランディングを進めてしまうと、就活生に与えるイメージにズレが生じる可能性もあるため、しっかりと軸となるコンセプトを定めて、採用活動に携わる社員に対しても常に採用コンセプトを意識してもらうことが重要です。
6.コミュニケーション全体設計
採用活動においては、採用パンフレットや採用情報サイトなどのツールだけではなく、インターンシップや会社説明会、面接などのコミュニケーションまで、トータルで設計することが大切です。それぞれ点で設計してしまうと、一貫性に欠けたものになってしまいます。どのツールを見ても一貫性があり、同じ内容が語られていることで就活生からの信用が高くなるため、採用サイトを見ても、面接を受けても、一貫した会社の魅力が伝わるようなコミュニケーションの全体設計が必要です。また、コミュニケーション手段の見極めも重要です。テキストや画像、動画、音声など手段は多岐に渡りますので、チャネルの特性を理解し、目的に適した最も効果的な手段を考えていきましょう。
7.PDCAを回す
採用ブランディングは、一時的に運用するのではなく、長期的に継続させることで効果を発揮します。定期的に効果測定を行い、PDCAサイクルを回しながら、適宜、軌道修正していくのがポイントです。採用コンセプトの軸はぶらすことなく、発信する内容や手段は就活生の反応を見ながら変えていくことが求められます。また、採用活動が落ち着いた時期には、狙った人材を採用できているのか、内定辞退率はどうなのかなどを分析し、次の採用活動に活かしていきます。採用ブランディングは長期的に実施していく施策のため、世の中のトレンドも意識しながらアップデートしていくことも想定しておきしょう。
人手不足が社会問題になっている現在、いかに優秀な人材を獲得するかが、企業成長の大きなカギとなります。採用ブランディングは、採用において同業他社との競合に悩む企業にとって、極めて効果的な施策といえるでしょう。しかし、継続した運用の必要性や、一貫した採用ツールのクリエイティブが求められるなど、自社だけで取り組むには難しい面もあります。採用活動に悩んでいる企業の方は、プロの手を借りることも検討してみてはいかがでしょうか。
企業への導入事例から学ぶ
インナーブランディング活動の具体的な進め方
JTBデザインコミュニケーションが実際にコンサルティングしているA社を例に、実際にインナーブランディング活動を取り入れた事例を資料としてまとめました。 今後インナーブランディング活動を取り入れる上での参考となるはずです。ぜひご一読ください。
- 企業ブランディング
- 2023/06/22