売り手市場と言われる昨今、企業の採用ブランディングへの関心が高まっています。これまでの記事では、採用ブランディングに取り組むべき理由やステップなどをご紹介してきました。しかし実際には、就活生に選ばれるための採用戦略を、どのように考え、何を行えばよいのか悩まれている方も多くいらっしゃるかと思います。そこで今回は、コロナ禍で落ち込んだ新卒採用の応募数をV字回復させたJCDが実際に取り組んだ採用活動について、新卒採用に携わる人事課の髙橋に語ってもらいました。
大きく変わる採用市場
対面からオンライン選考へ
最近の採用市場で最も変化した点は、選考が対面からオンラインへと切り替わっていることです。JCDでも、2023年卒の採用をオンラインで実施しました。会社説明会やインターンシップ、選考に関しても一次・二次面接はオンライン、最終面接だけ対面で実施しました。オンラインであれば、収容人数の制限がない分、一度にたくさんの学生にアプローチすることが可能です。交通費の負担や移動等の制限がないので、対面で行っていたときに比べて地方の学生にも多く参加してもらえるようになりました。また、会議室などの事前準備や、暑い・寒いなど空調管理も不要です。居住地に関係なく多くの学生にアプローチができる点や環境の準備が不要なことは、オンラインの大きなメリットだと感じています。
このほか、就職活動の早期化により、学生が早い段階から企業の情報をキャッチしていることも変化した点といえるでしょう。JCDに入社した新入社員の中にも、大学2年生の夏に当社のインターンシップに参加していた者もおり、2~3社ほど参加して応募企業を見極めていたと聞いています。現行のルール上、新卒採用の会社説明会を開催できるのが3月からと決まっているので、それより前に会社の採用情報を発信できません。ですので、就職活動の早期化に対応していくために、私たちのようなBtoB企業はインターンシップなどで企業を知ってもらう手法を取っていく必要があると思います。
さらに学生の変化でいえば、キャリアや働き方に対する興味関心が大きくなっているように感じています。SNS上ではやりたいことを優先すべきか、待遇面を優先すべきかなどという議論を多くの学生がしていますし、働き方についても「リモートで働きたい」「年収はこれくらいほしい」などという要望を直接伝えてくるようにもなりました。JCDですと、マネジメント以外にもプロデューサーやスペシャリストの道もある複線型のキャリアデザインが可能となっています。それを魅力的だと思ってくれる学生も増えていて、以前に比べて自身のキャリアをしっかり考えている学生が増えていると実感しています。
学生との接点を増やしたことで
新卒採用の応募者数が2倍に!
昨年は2024年卒採用に向けて、当社の採用ホームページをリニューアルしました。大きな変更点は、それぞれの事業に携わっている社員のリアルな姿を見てもらえるように、社員インタビューを多く掲載した点です。インタビューページで各事業を紹介することにより、事業理解と合わせて社風や社員の人柄などを知ってもらい、ビジョンに共感を持ってもらえるようにすることが狙いでした。また、新卒入社の社員だけではなく、キャリア入社した社員や管理職の社員のインタビューも掲載し、新卒とキャリア両方に対応した内容にしました。これは、入社後にどのようなステップアップできるのかをイメージしてもらい、様々なキャリアを持った方にも興味を持ってもらえるようにするためです。現在は説明会や選考をオンラインで開催しているので、実際に来社する機会が少なく、私たち社員の生の姿を見ることができないんですね。ですので、ホームページ上でオフィスの様子や社員の写真を多く掲載し、よりリアルに感じてもらえるような環境は用意しておくべきだと思います。
また、2024年卒採用ではオンラインでのOBOG訪問を例年以上に設定しました。やはり説明会で理解いただける内容と、一対一で社員と話すことにより感じていただける内容は変わってきます。学生にJCDのリアルを知ってもらおうと、OBOG訪問の実施は積極的にアピールしていました。採用ページに多くの社員インタビューを掲載しているので、名指しで訪問依頼が入ることもありますし、『JCD NOW!』などの自社事例を紹介しているサイト記事を見て「この事業に携わった人の話を聞きたい」という問い合わせを受けることもあります。ですので、採用ページだけで情報を閉じてしまうのではなく、今あるサイトとリンクを繋げるなど、会社全体の広報との連携をとることも欠かせないですね。
コロナ禍だったこともあり、JCDは2022年卒の新卒採用を行いませんでした。この1年間の空白期間、そして2023年卒のときは夏のインターンシップを行っていなかったため、採用に消極的だと見られてしまい、2023年卒の応募数が例年と比較してとても少なかったんです。そこで、採用ページを大幅にリニューアルし、OBOG訪問を例年以上に設定するなどして学生との接点を増やしていき、落ち込んでいた応募数をV字回復させることができました。
応募時にミスマッチが起きないように
業務内容をイメージしてもらう工夫を
JCDの場合、求人情報はJTBグループの合同求人として掲載されるため、「JTBコミュニケーションデザイン」という名前が前に出てきません。大学が開催している説明会に行っても、JTBグループとして旅行業界の変遷やグループの歴史などを話すことになり、なかなか自社を認知してもらえないのは苦労する点でもあります。また、JTBグループを希望する学生は旅行業界への関心が強いので、JCDに応募してきても事業内容の部分でミスマッチが起きてしまうこともあります。それを防ぐためにも、JCDの会社説明会の冒頭には、「JTBグループの中でも旅行を扱っていないユニークな会社であること」「あらゆるコミュニケーション領域におけるスペシャリストとして、コミュニケーションをデザインしていること」を必ず伝えるようにしています。JTBグループの中でも特異性がある会社だということを、しっかり伝えられるかを意識していますね。
自社は求人票には「総合職」というくくりで募集をかけていますが、この表記だけですと漠然としていて、わかりにくさがあります。そこで、仕事内容欄に「企画提案型営業職」と表記し、営業から企画、実行までワンストップでクライアントに対して提案する営業職であることを書き加えています。少しでも仕事内容をイメージしやすくするために、こういったことも採用担当者として意識している点ですね。
採用戦略を描く上で大切なのは
いかにビジョンに「共感」してもらえるか
採用活動は、とにかく応募者数を集めればいいということではありません。いかに自社にマッチした人材に入社してもらうのかがとても重要です。JCDでも、過去に学生受けがいい事業を重点的にアピールして応募者数を増やしたことがありました。ですが、応募者数が増えた分、マッチしている人材を見極める手間がかかるので、逆に効率的ではなくなってしまうんです。ですから、自社の魅力やビジョンをストレートに伝えて、それに共感してくれる学生に応募してもらう流れを作ることが、採用フローでは大切だと思います。ただ応募者数を増やすのではなくて、自社がどのような意図をもってその事業を行っているのかを的確に伝え、共感した人が応募してくれれば自然と自社にマッチする人材が集まります。そうすれば、内定後の辞退も減っていくはずです。
また、採用広報だけで動いてしまうと社会的な採用活動に関するルールの縛りもあり、情報を出せる時期や媒体が限られてしまいます。ですので、会社全体の広報と連携することも重要ですね。JCDでも事例紹介をしている『JCD NOW!』を使って、様々な事業の説明をしています。特にBtoB企業は、会社自体を知ってもらえるような認知拡大の活動が大事になってきますので、今後は人事からも「この事業に興味を持ってもらいたいから、この社員を取り上げてインタビューしてほしい」などという働きかけを社内でもっとしていくつもりです。今はSNSなどの発達によって就活に関する情報がサイト上にあふれていて、ソースが不確かな情報を信じ込んでしまう学生も多いように感じています。だからこそ、私たち企業側から情報を発信し、正しい情報を伝えていくことが大切なんです。
繰り返しになりますが、今の時代の採用戦略で最も大切なことは「ビジョンへの共感」です。そのためには、採用ブランディングから求める人材ターゲティング、コンセプト設計等を外部のプロの手を借り、一緒に構築していくことも方法のひとつだと感じています。
人材採用に携わっている身としては、選考・内定・入社面談を経て無事に入社してくれた新卒社員が配属先に馴染んで、イキイキと仕事をしている様子を見ると、とても嬉しい気持ちになります。また採用ホームページのインタビューで、社員が楽しそうに仕事のやりがいを語ってくれると嬉しくなりますね。今後も、人事としてJCDを志望してくれる学生、そして社員一人ひとりがより良いキャリアを築くためにサポートに努めていきたいと思っています。
髙橋 彩香
総合企画部 経営企画局 人事課
2014年に入社し、企業のカンファレンスや周年行事の企画営業、地域における周遊施策の推進、世界的スポーツイベントのスポンサー企業のプロモーションなど、多彩な業務を経験し、人事へキャリアチェンジ。現在は新卒・キャリア、障がい者も含めた採用活動全般と、社員向け研修の企画に携わる。趣味は野球観戦で、横浜DeNAベイスターズのファンクラブに入るほどの野球好き。今の推しは、牧秀悟選手。
企業への導入事例から学ぶ
インナーブランディング活動の具体的な進め方
JTBデザインコミュニケーションが実際にコンサルティングしているA社を例に、実際にインナーブランディング活動を取り入れた事例を資料としてまとめました。 今後インナーブランディング活動を取り入れる上での参考となるはずです。ぜひご一読ください。
- 企業ブランディング
- 2023/06/23