周年事業は企業が区切りのよい節目を迎えた年に、社員や取引先に対してこれまでの感謝や今後のビジョンを伝え、企業としてのステップアップを図る施策です。働き方改革やグローバル化などによって、多様な価値観を持った社員がひとつの企業に在籍している現在社会において、周年事業は企業全体の一体感を生み出せる貴重な施策として注目が集まっています。
しかし、周年事業は頻繁に行う施策ではないため、社内にノウハウが溜まっていない企業も多く、周年事業の進め方に悩んでいる担当者もいるでしょう。そこで今回は、周年事業を成功させるために、代表的な手法や進め方に加え、事例も添えて解説します。
周年事業の目的は対象が
「社内」か「社外」によって大きく変わる
周年事業は企業の重要な節目を記念して行うものではありますが、長い準備期間や予算を割くほど価値のある施策なのでしょうか。「企業の誕生日会」としてお祝いするだけに終わってしまう例もありますが、周年事業は綿密に計画を練れば、企業の成長を推進させられるほど大きな影響力を持つ施策なのです。
まずは、周年事業を実施する主な目的をご紹介します。
【社内】社員のモチベーションを上げ、企業のターニングポイントとして活用する
現在の日本は、大企業ですら業績不振に陥る時代です。経営が難しい時代において、周年事業を実施できるほど企業を安定させることは決して簡単ではありません。経営者の手腕はもちろん、現場で事業に貢献している社員がいるからこそ、企業は存続できます。そのため、周年事業は、企業に関わるすべてのステークホルダーに対しての「慰労」を目的とするケースが多いです。
しかし企業にとって、全社員が一堂に会する貴重な機会はほとんどないため、周年事業は全社に向けてメッセージを発信し、モチベーション向上を図る絶好の機会です。節目を迎えられた功績を振り返りながら、企業の未来像を発信することで、企業としての一体感を生み出せるでしょう。
【社外】取引先との関係性を強固にする
周年事業は、社内だけに向けて行われる施策ではありません。企業が存続するためには、社外の「取引先」が絶対に欠かせない存在です。社外向けの周年記念パーティを開催すれば、取引先に日頃の感謝を伝えられるだけではなく、これまでに培ってきた実績をアピールしたり、今後の取り組みをPRできたりするなど、新たなビジネスチャンスとしても活用できます。
このように周年事業は、「社内向け」か「社外向け」かによって目的が大きく変わります。周年事業の準備に取り掛かる前に、施策を通じてどのような目的を定めるのか、整理しておくとよいでしょう。周年事業の目的を、「社内向け」と「社外向け」に分けてまとめた表を以下に掲載していますので、参考にしてみてください。
社内向けの目的 | ||||
---|---|---|---|---|
社員へ感謝を伝える | ||||
社史や理念への理解促進 | ||||
今後のビジョンや戦略の共有 | ||||
社員同士のコミュニケーション活性化 | ||||
社員のモチベーション向上 など |
社外向けの目的 | |||
---|---|---|---|
クライアントに感謝を伝え、関係を強化する | |||
周年記念限定の商品を販売することで売上につなげる | |||
企業イメージの刷新(名称やロゴの変更など) | |||
新商品や新規事業についての発表やプロモーション など |
目的に応じて使い分ける。
数多くある周年事業の手法
周年事業の手法は、周年記念パーティを開催するだけではなく、ほかにも多くの施策があります。予め決められている予算や期間のなかで目的を達成するためには、さまざまな手法の特徴や違いを理解し、効果的な方法を選択する必要があります。
次は、代表的な周年事業の手法を「社内向け」と「社外向け」に分け、それぞれの特徴や実施する際のポイントなどをご紹介します。具体的な手法に迷っているときは、参考にしてみてください。
【社内向け】社内コミュニケーションの活性化を促す「社員旅行」
社員旅行では、非日常のなかで感動の瞬間を共有したり、長時間一緒に過ごしたりすることで、社内コミュニケーションの活性化を促します。
一方、全社をあげて旅行する場合、参加者一人ひとりに大きな費用がかかるため、大勢の社員を抱える企業では高額な予算が必要になります。周年事業の代表的な手法であるパーティと比較すると、企業からのメッセージを真剣に伝える状況も限られるため、「社員の慰労」だけで終わってしまわないように注意しましょう。
【社内向け】企業への帰属意識を高める「社内報の作成」
周年事業の一環として、「社史」の制作や、「社内報」で自社の歴史を取り上げることも定番の手法です。現在、価値観の多様化や終身雇用の風潮が薄れてきたことから転職者が増え、人材の流動性が高くなっています。在籍期間の短い社員に企業の歴史を伝えられる社史や社内報は、帰属意識を高める効果が見込めるでしょう。
また冊子であれば手元に残せるため、「周年記念品」として活用することも可能です。
【社外向け】企業の利益に直結しやすい「キャンペーン」
社外向けの手法のなかでも、企業の利益に直結しやすいのが「周年キャンペーン」でしょう。10周年といった節目の年において、企業は注目を浴びやすく、自社をPRしやすい期間です。セールをはじめとした販売促進をかけたり、これからのビジョンを広く発信してイメージアップを図ったりするなど、さまざまな効果が期待できます。
【社内・社外向け】経営に中長期で活用できる「特設サイト」
近年、スマートフォンやインターネットの普及によって、ウェブ上で企業メッセージを発信する重要性が高まっています。周年事業においても、周年記念の特設サイトを開設し、企業の歴史やこれからのビジョンを社内外に向けて発信するケースが増えています。
一度目を通して終わってしまいやすい冊子とは異なり、ウェブサイトではキャンペーンへの申込みにつなげたり、サイトの読者データを分析したりできるなど、経営に中長期で活用できる点が強みです。
【社内・社外向け】アレンジ力の高さとメッセージ力の強さ「記念パーティ」
記念パーティが周年事業の定番手法である理由は、「アレンジ力の高さ」と「メッセージ力の強さ」です。記念パーティは、規模や予算、社内向けか社外向けかなど、目的にあわせて会場や内容を柔軟にアレンジできます。また、全社員や取引先の関係者が大勢集まる機会はほとんどないからこそ、企業が発信したいメッセージを効率的に発信できる絶好の機会なのです。
これまでに挙げた周年事業手法は、あくまでも一例です。周年ロゴやキャラクターを作成したり、新しい理念やビジョンを策定したりするなど、ほかにも多くの手法があります。どんな目的を達成したいのかによって、こうした手法を使い分けましょう。
周年事業の進め方と成功させるためのポイント
さきほどご紹介したように、多くの手法が効果的なものを選定するためには、目的を明確に定める必要があります。そのため、周年事業に取り掛かる日の目安は、遅くとも実施日から1年前、丁寧に準備したければ2年前からがおすすめです。
次は、周年事業の準備を進める際に行うべき作業を、「準備フェーズ」「設計フェーズ」「実行フェーズ」の3つに分けてご紹介し、施策を成功させるために意識しておくべきポイントもあわせて解説します。
【準備フェーズ】「体制構築」と「目的の明確化」が重要
取り組む内容
- ・予算の決定
- ・体制構築
- ・目的の明確化
- ・社内向けか社外向けか対象を決める
周年事業を実施する際は、この準備フェーズが最重要です。このフェーズでどれだけ施策の内容を具体化できるかで成否が分かれます。準備フェーズのなかでも、特に重要な作業が「体制構築」と「目的の明確化」です。
ほとんどの企業では、周年事業は日常的に実施する施策ではないため、社内に専用のチームがある企業は稀でしょう。専門チームがない場合、周年事業の実施が決まってからチームを組成する必要があるため、チームメンバーは既存業務との兼務になる可能性もあります。それでも周年事業のチームメンバーには、施策にかかわる意義を感じてもらえるように、チームの管理者は明確な役割分担やメッセージングが重要です。
目的を明確化する際は、「〇〇人の関係者に参加してもらう」や「周年事業が終わった後、社員の行動を〇〇に変える」など、目的を達成したか判断できる状態になるまで具体化しましょう。目的が明確になると、チームメンバーの目線も揃いやすくなるばかりでなく、コンセプト設計やコンテンツ企画も進めやすくなります。
【設計フェーズ】目的をコンセプトや企画に落とし込む
取り組む内容
- ・コンセプトの立案と決定
- ・各施策、コンテンツの企画
- ・実行委員やイベント業者の選定
設計フェーズでは、これまでにご紹介した各施策の特徴や、すでに決められている予算をふまえ、目的を達成するために最適なコンセプトや企画を考えます。コンセプトを考える際のポイントは、「これまでの歴史」「今度どうなりたいか」「現状はどうか」の過去・未来・現在を言語化し、整理することです。「過去・未来・現在」の順番で考えることで、目的達成を阻む課題を捉えやすくなるため、「今、発信するべきメッセージ」をコンセプトに落とし込みやすくなります。
もし、チーム内にコンセプト設計や企画立案のノウハウがない場合、周年事業を専門とする事業者に相談する方法もあります。社外に依頼するため費用はかさみますが、豊富な知見からプロジェクトをスムーズに進行してくれるばかりでなく、ワンランク上の会場確保や質の高い企画立案もサポートしてくれるでしょう。
【実行フェーズ】コンセプトを事前に浸透させておく
取り組む内容
- ・社内外への告知
- ・各企画の実行
各施策や企画の詳細が固まったあと、周年事業のコンセプトを社内に浸透させ、当日への期待感を作ることも、チームメンバーの重要な仕事です。事前に周年事業のコンセプトを社内に浸透させておくことで、社員は周年事業を「自分ごと化」でき、目的を達成しやすくなります。
社内の掲示板やSNSといったコミュニケーションツールに加え、会議などを通じて、周年事業について積極的に発信していきましょう。
【社内向けと社外向け】周年事業の事例
これまで、周年事業の手法や進め方を中心に、施策を成功させるためのポイントを解説してきました。最後に、こうしたポイントを踏まえた上で、周年事業を実施した事例をご紹介します。
【社内向け】アパレルメーカーによる創業50周年記念社員大会
某アパレルメーカーは、5,000人を超えるグループ会社の全社員をホールに集め、表彰式や今後に向けてのプレゼンテーション、懇親会などを行いました。イベントのなかで理念やビジョンを体現している社員やチームを表彰することで、企業として評価する取り組みや成績を可視化でき、現場のモチベーション向上が見込めます。
【社外向け】健康器具メーカーによる創業50周年記念式典
次は、某健康器具メーカーが、ホテルのホールを貸し切って取引先の関係者やVIPを450名ほど招待し、レセプションパーティーを開催した事例です。取引先へ感謝を伝えて、より強固な関係性を構築することに加え、今後のビジョン共有も行いました。企業がこれから目指すビジョンを関係者に発信することで、今後の取引拡大に向けたPR効果が見込めます。
参考:『健康器具メーカー 創業50周年記念式典』JTBコミュニケーションデザイン
入念に準備すれば周年事業は必ず成功する
周年事業は企業にとって大きな意味を持つ施策です。その推進役である担当者の責任は、決して軽いものではないでしょう。しかし、目的の明確化やコンセプトの浸透、適切な手法の選択など、準備を入念に行えば、周年事業は必ず成功させられます。チームメンバーや、時には社外の専門家と力を合わせながら、周年事業を成功に導き、会社の成長を実現しましょう。
未来を制する周年事業
ウィズコロナの時代でも、多くの企業が周年という節目を「チャンス」として認識し、目的意識を持って周年事業に臨むことで、会社を発展へと導いています。JCDが実施した社内イベントに関する調査結果をもとに、企業に起こった変化を解説。周年事業における「インナー」「アウター」「地域」それぞれに向けた「効果」を中心に、ポイントを紐解きます。
関連ページ
“周年”は、節目であり、通過点。これまでの歴史を称え、その先の未来を拓く
- 企業ブランディング
- 2019/06/20