DEIB(ダイバーシティを含む概念)の基礎知識⑥
~ 経営戦略としてのダイバーシティー ~

2026/03/24

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  • ダイバーシティ

多様な人材の能力や特性を最大限に活かす「ダイバーシティ経営」についての理解を深め、組織による重点施策の1つとして、ダイバーシティに取り組むとどのような良いことがあるのかをシリーズでお伝えしてきました。

第6回目は、最終回として、「経営戦略としてのダイバーシティー」についてご案内いたします。

ダイバーシティで着目される「多様性」は、企業競争力の源泉へ

近年、「ダイバーシティ」という言葉は企業活動において頻繁に耳にするようになりました。しかし、その意味合いは過去10年で大きく変化しています。かつてダイバーシティは、女性活躍推進や障害者雇用といった、法令遵守や社会的な要請に応えるための「制度整備」として捉えられることが多くありました。
しかし、現在、そして2025年以降の潮流では、ダイバーシティは単なる人事施策に留まらず、経営戦略そのものとして位置づけられつつあります。ここで重要なのは、ダイバーシティは女性だけを優遇するような「贔屓」ではないという点です。
企業が直面する環境変化は非常に激しく、市場の成熟化、人口減少、技術革新の加速、そして価値観の多様化が進んでいます。これらの変化に対応するためには、従来のような同質的な組織では限界があります。異なる視点、異なる経験、異なる価値観を持つ多様な人材が集まり、それぞれの違いを活かし合う組織こそが、変化に強く、イノベーションを生み出すことができるのです。
つまり、ダイバーシティは「寛容さ」や「平等」といった側面だけでなく、企業が持続的に成長し、競争力を維持するための合理的な戦略として不可欠な要素となっています。

本コラムでは、このような経営戦略としてのダイバーシティを深く読み解き、企業がこれから備えるべき点や見直すべきポイントを整理していきます。第6回は、ダイバーシティで着目される「多様性」が「企業競争力の源泉」となることに焦点を当てることで、取り組みを通じて求められる変化の本質がより鮮明にしていきたいと思います。

1.ダイバーシティは「人を揃える」から「違いを活かす」へ

従来の日本企業は、「みんなが同じであることを前提に、「誰もが同じである」同質性を前提とした組織運営をつくってきました。新卒を同時期に一斉に採用し、同じような価値観を持ち、似通ったプロセスでキャリアを積み、働き方も同様で、年齢に応じて昇進していく年功序列で同じ組織で働き続ける長期雇用が当たり前となっていました。こうした取り組みは、高度経済成長期のように環境が安定し右肩上がりで成長していた時代では非常に有効的な組織づくりでした。足並み揃えば意思決定は早く、組織基盤も固めやすかったからです。
しかし、今の時代は状況がまったく異なります。技術は急速に進化し、消費者の価値観も多様化し、ビジネス環境はめまぐるしく変化しています。同じような経験知を積み、考え方を持つ同質的な人材ばかりが集う組織では、視野の広がりに乏しく、新たしい発想は生まれにくくなります。変化に対する適応力は限られ、そのスピードも落ちますので、変化の激しい現代ではむしろ同質性人材が集う組織体制では競争力を失ってしまうリスクが高まります。
だからこそ、注目されているのが「ダイバーシティ(多様性)」です。ただし、ダイバーシティの本質は、単純に「違うカテゴリーに分類される人を幅広く集めればよい」という単純な話ではありません。大切なことは、性別、年齢、国籍、働き方、専門性、価値観といった“違い”を組織力に変えることです。人が違えば、物事のとらえ方も、考え方も、得意なことも、問題解決の仕方も異なります。時には意見がぶつかりあい、摩擦が生じることもあります。その摩擦こそが、新しいアイデアや解決策を生み出す源になります。異なる視点が交差することで、これまで気づかなかった課題が見えてきたり、注目されてこなかったことが見直されたりして、革新的な発想が生まれることもあります。ダイバーシティとは、「違いを排除しない」だけでは不十分で、「違いを活かして成果につなげる」ことが真の目的になります。

近年注目される概念のDEIB(Diversity, Equity, Inclusion, Belonging) について、改めて言葉の意味を整理しましょう。これはダイバーシティの進化形として、企業が本当に成果を出すために必要な要素が示されています。
• D(Diversity)多様性:違いが存在する状態
• E(Equity)公正性:違いに応じた適切な機会提供
• I(Inclusion)包摂性:誰もが意見を言える環境
• B(Belonging)帰属意識:自分が組織に必要とされていると感じる状態
※「Belonging(帰属意識)」は、近年の人的資本経営の中でも重要視されています。
多様な人材を採用しても、心理的安全性がなければ意見は出てこないことが多く、能力も発揮されにくくなります。
だからこそ、ダイバーシティは「人数を揃える」だけでは意味がなく、活躍できる環境を整えることこそが戦略の核心となります。

2.違いを活かすために必要な組織文化を形成する

多様な人が集まっているだけでは、組織は強くなりません。むしろ、価値観や働き方が違うほど摩擦が生まれやすく、放置すれば対立や分断につながります。新卒採用やキャリア採用によって人員が増加しても、組織内で単一的な文化が形成されていない場合、それぞれの従業員が持つ「当たり前」が持ち寄られるだけで、新たな組織文化が生まれないことがあります。その結果、異なる価値観が相互に交わることなく放任され、従業員が同じ方向を向いて仕事をしなくなる事態を招く可能性があります。同じ組織に所属しているにもかかわらず、まったく意思統一が図れていないかのような空気感が漂う組織も少なくありません。だからこそ「違いを力に変えるための土台となる文化」が必要です。
以下では、重要な4つの文化をまとめました。

(1)心理的安全性「安心して意見を言える空気感がある」
多様な人が集まる組織では、「安心して話せる空気」が欠かせません。どれだけ優れた専門性や経験を持つ人がいても、「間違ったらどうしよう」「反対意見を言ったら嫌われるかもしれない」と感じてしまえば、誰も本音を口にしなくなります。これでは、せっかくの多様性が表に出なくなり、組織は従来の同一性「発言権を持った同じ考えの人だけが発言する場」に逆戻りしてしまいます。
心理的安全性とは、立場や年齢に関係なく、安心して意見を言える状態のことです。 「こんなことを言ったら異様な反応が返ってくるかもしれない」「評価が下がるかもしれない」という不安なく、むしろ意見を出すことが歓迎されると感じられる環境のことです。この状態が整っている組織では、次のような行動が自然に生まれます。
• わからないことを素直に質問できる
• 気づいたことを遠慮なく共有できる
• 違う意見を持っていても安心して発言できる
• 失敗しても問答無用で責められず、次に活かす姿勢が尊重される
こうした行動が積み重なることで、組織の中に多様な視点が流入し、異質と思われることに対する適応力が高まることで議論が深まり、新しい発想が生まれやすくなります。逆に心理的安全性が低いと、表面的には静寂な空気が流れて秩序が保たれているように見えても、「誰も本音を言わない」「問題が隠されたまま表に出ない」「挑戦が生まれない」という停滞が起こります。
心理的安全性はどのようにして生まれるのでしょうか。 ポイントは、特別な制度を整備したり研修を受講したりすることよりも、日々の小さな行動の積み重ねが大切です。
• 上司やリーダーが、意見を否定せずにまず受け止める
• 失敗を責めるのではなく、学びとして扱う
• 「なぜそう思ったのか」を丁寧に聞き、背景を理解しようとする
• 反対意見が出ても、人格否定ではなく“アイデアの創出”として扱う
こうした行動が積み重なることで、「ここでは安心して話していいんだ」という空気感と相互信頼が生まれます。心理的安全性は一度つくれば終わりではなく、日々のコミュニケーションの中で育み続けるものです。

(2)相互理解の姿勢「違いを知ろうとする態度」
多様性は「理解し合う努力」を経て、初めて価値に気づくことになります。だからこそ、多様性を活かすうえで欠かせないのが、「相手を理解しようとする姿勢」です。 人は誰しも、自分の価値観や経験を当たり前で他の人と共通するものだと思いがちです。実際には、組織に多様な人が集まるほど、当たり前ではなく個々により大きく異なっていることに気づかされます。

相互理解とは、相手の考え方や価値観、それを形成するに至った背景を知ろうとすることです。 「なぜその意見になるのか」「どのような経験が判断に至ったのか」を理解しようとする姿勢です。この姿勢を持つ組織人が集う組織では、次のような変化が起こります。
• 違う意見が出ても、感情的な対立にならず、建設的な議論になる
• 相手の強みや専門性が見えやすくなり、役割分担がしやすくなる
• 誤解や思い込みによる衝突が減り、協力関係が生まれやすくなる
違いを理解しようとする姿勢があると、摩擦から対立を生み出しても、建設的な議論に置き換わると共に学びに変わります。 相互理解は、多様性を活かすための“潤滑油”のようになります。

(3)協働の文化「違いを組み合わせて成果を出す」
多様性の目的は、「仲良くすること」ではなく、「成果を生み出すこと」です。 そのために必要なのが、違いを組み合わせて新たな価値を創出する協働の文化です。
協働とは、単に一緒に仕事をすることではありません。 お互いの強み・専門性・多様な視点を持ち寄り、ひとりでは見出すことのない成果を生み出すことです。協働の文化が根づいた組織では、次のような動きが自然に起こります。
• 得意なことを活かし合い、弱みを補い合えるようになる
• 異なる専門性が交差し、新しいアイデアを創出する
• 「誰が・何が正しいか」の追求ではなく、「どうすれば良くなるか」に意識が向く
• 柔軟な役割分担により、状況に応じて助け合える
多様性は、協働という結びつけあえる文化があって初めて、違いを価値に変えることができます。

(4)目的の共有「違いを束ねる共通の軸」
多様な人が集まるようになると、考え方や価値観が異なるだけでなく、判断基準や優先順位にもばらつきが生じます。だからこそ、組織としての目的が明確で末端まで伝わることが重要です。
目的の共有とは、 「私たちは何のためにあるのか」「この仕事がどのように役立つのか」」 「どんな価値を社会に届けたいのか」 を組織全体として理解し、共通の方向性を向いている状態になっていることです。目的が共有されている組織で見られる傾向があります。
• 意見の違いがあったとしても最終的に共通のゴールに向かい、まとまりがある
• 判断基準が揃うようになり、迷いや衝突が減る
• 多様なアイデアが成果創出への推進力になっている感覚が味わえる
• メンバーの主体性が高まり、チームとしての一体感が生まれる
共通の目的を持つことは、多様性が持つ力をひとつの方向に束ねる軸となります。 この軸があることで、違いが組織の推進力になります。

3.経営戦略としてのダイバーシティ

ダイバーシティの本質は、単に「多様な人を集める」ことではありません。組織の中にある固定観念や慣習を問い直し、違いを活かすことで組織の可能性を最大化することにあります。多様性を受け入れることは、組織にとって時に不都合なこともあります。多様性を活かすための適切なマネジメントや組織文化が不足している場合に顕在化しやすいものです。主に以下の状況や要因が考えられます。

(1)コミュニケーションの複雑化と誤解が生じる
異なる文化、言語、価値観、コミュニケーションスタイルを持つ人々が集まると、意思疎通が難しくなり、誤解が生じやすくなります。「言わなくてもわかるだろう」といった暗黙の了解が通用しにくくなり、説明に時間や労力がかかることがあります。

(2)意思決定の遅れと決定事項の不明瞭さ
多様な意見や視点があることで合意形成に時間がかかったり、意見の対立が激しくなったりすることがあります。全員が納得する結論を導き出すのが難しく、結果として意思決定が遅れたり何が決まったのかが不明瞭に終わることがあります。

(3)摩擦や対立の増加
異なるバックグラウンドを持つ集団は、仕事の進め方や優先順位、問題解決のアプローチの仕方等において、意見の相違が生じやすくなります。感情的な対立や摩擦に発展することがあり、チームワークを阻害する要因となります。

(4)組織文化の希薄化や混乱
多様な価値観が混在することで、組織としての一貫した文化やアイデンティティが希薄になったり、混乱が生じたりすることがあります。共通の規範や行動指針が不明確になり、組織の一体感が損なわれる可能性があります。

(5)マネジメントの複雑化
マネージャーは、多様なメンバーそれぞれのニーズ、モチベーション、キャリア志向に対応する必要があります。これまでの画一的なマネジメント手法では対応しきれず、個別の配慮や柔軟な対応が求められマネジメントの難易度が上がります。

(6)能力を最大限に発揮できる環境の欠如
単に多様な人材を集めるだけでなく、それらの人材が組織内で公平に扱われ、能力を最大限発揮できる環境がなければ、多様性はむしろ逆効果になります。特定の人やメンバーが疎外感を感じたり、能力を発揮できなかったりすると、離職率の増加や生産性の低下に繋がります。
このような摩擦を乗り越えた先にこそ、企業の成長と革新が待っています。 ダイバーシティは、企業が未来を切り開くための戦略そのものです。

4.経営戦略としてのダイバーシティは現場の変革から始まる

これまでご案内してきたように、経営戦略としてのダイバーシティは「現場の変革」から始まります。ダイバーシティ推進は、経営トップのメッセージがとても重要ですが、それだけで機能するものではありません。実際に変化を起こすのは現場であり、現場のマネジメントが変わらなければ、多様性は活かしきれなくなります。
ダイバーシティー経営がもたらす3つの効果は、主に以下の3点が挙げられます。

①マネージャーの役割転換
従来の「管理型マネジメント」から、個々の特性に着目し、強みを引き出し違いを受け止め全体最適に
落とし込むことでチームとして成果を出すマネジメントといった「支援型マネジメント」への転換が求め
られる。
②働き方の柔軟性
多様な人材が活躍するには、働き方の柔軟性が不可欠である。
リモートワーク、時短勤務、副業、ジョブ型など、選択肢を広げることで能力発揮の機会が増える。
③評価制度の見直し
多様な働き方を認めるには、評価制度も変える必要がある。
時間ではなく成果、プロセス、価値創造を評価する仕組みが求められる。

ダイバーシティを推し進めることは、企業が生き残るための選択肢ではなく成長し続けるための必須要件と考えられます。特別な人や組織の取り組みではなく、あらゆる人の意識と行動から始められることです。

【まとめ】ダイバーシティは「コスト」ではなく「投資」

ダイバーシティは単なる「コスト」ではなく、企業の未来を左右する「投資」として捉えるものです。ダイバーシティ推進には、制度設計や研修実施などコストが発生しますが、これを競争優位性を確立するための戦略的な投資と位置づけることが重要です。
世界の先進企業は、既にダイバーシティをイノベーションの源泉、そして持続的成長のための不可欠な要素と認識しています。多様な人材が活躍できる環境は、市場の変化への適応力を高め、新たな価値創造を促進し、結果として企業の長期的な成長に貢献します。
日本企業においても、ダイバーシティは「やらなければならないこと」という義務的な側面から、「成長のために積極的に取り組むべきこと」、として位置づけられ、「競争に勝ち抜くために不可欠な戦略」へとその重要性が変化しています。この認識の転換が、企業の持続的な発展を左右すると考えられます。
是非とも、「経営の魂を込めた真のダイバーシティの取組みを!」心より願い、お勧めいたします。

HRコンサルティング事業局
チーフコンサルタント 井内 郁子

大学卒業後、保険会社営業職を経て、国内航空会社国際線客室乗務員として乗務しチーフパーサーおよびパーサーとして機内サービス業務に付随したマネジメント業務に携わる。2003年からコンサルタントとしての活動を始動し、階層別研修を実施。新人から役員に至るまで幅広く対応している。顧客ニーズに応じてカスタマイズを行い高確率のリピート率を保持。昇進昇格に関わる評価者として選抜アセスメントにも従事。現在では人材育成・組織開発分野に深く携わり、現状分析に基づく課題特定・解決案策定と実行支援を担っている。
資格:DiSCCERTIFIEDTRAINER/ProfileXT認定/CheckPoint360°認定/国内養成機関プロコーチ、産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント/NLPマスタープラクティショナー/交流分析士1級 他

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