インナーコミュニケーションとは。
モチベーションを上げる施策と事例

現在、定年退職年齢の引き上げや女性の社会進出、転職者の増加によって、企業内には多様な価値観を持った社員が混在しています。また、バブル期を過ごした団塊世代と好景気崩壊後の氷河期世代、新社会人のミレニアム世代におけるコミュニケーション方法の違いから、日常的な交流においても世代間ギャップによる齟齬が生じ、社内の風通しが悪くなってしまうケースもあるでしょう。

組織内の意思疎通を円滑にするため、「インナーコミュニケーションの活性化」を目標に掲げ、改善に取り組む企業が増えています。「インナーコミュニケーション(インターナルコミュニケーション)」とは、社内コミュニケーションとも呼ばれ、全社員が企業と共通の目的意識を持てるように、社内に向けてメッセージを発信する広報活動や、社員間コミュニケーションのことです。インナーコミュニケーションの活性化には、日常的な風通しが良くなるだけではなく、企業の経営状況を好転させるメリットが見込まれています。

今回は、インナーコミュニケーションの重要性が高まっている社会背景を詳しく解説しつつ、その活性化に取り組むメリットや、いくつかの手法を解説します。

インナーコミュニケーションが
重要視される背景と取り組み状況

インナーコミュニケーション活性化を実現するためには、転職者が増えたり、世代間ギャップが広がったりしている背景の理解が近道になります。問題の原因を社会背景から把握することで、自社が直面している課題を俯瞰でき、適切な改善策を講じられるようになるからです。

まずは、インナーコミュニケーションの活性化が求められている社会背景を詳しく解説し、各社の取り組み状況について紹介します。

人材の流動性が高まり、「従業員に選ばれる意義」が求められるように

現在の経営を考える際、「総人口の減少」は、すべての企業に影響を及ぼす要因です。厚生労働省の研究機関『国立社会保障・人口問題研究所』によると、2025年には総人口における65歳以上の割合が30%を超える「超少子高齢社会」が訪れると試算しており、その影響は経済にも波及すると言われています。総人口減少と年齢構造の変化にともない、既存市場の縮小と新しい市場の形成が見込まれているため、たとえ大企業であっても、これまでの経営を維持しているだけでは生き残れない時代が到来しているのです。

バブル期のように企業の存続が見込まれていた時期は、社員は新卒採用から定年退職までひとつの企業に勤め上げる「終身雇用」が当たり前でした。しかし、現在の企業は、業界や規模を問わず業績不振に陥る時代です。

企業が存続する保証がない場合、働き手は自らの職を確保するために、転職できる高いスキルを養う意識が備わりはじめました。また価値観の多様化により、プライベートを重視した働き方を希望する人も増えています。こうした考え方を持つ働き手は、スキルアップやプライベートの確保が可能な環境を求めて転職する人が多く、企業間で人材の流動性が高くなっている状況は発生しているのです。

こうした背景のなか、企業が優秀な人材を確保し続けるためには、社員に「自社で働く意義」を感じてもらう必要があります。制度や業務フローの調整によって従業員満足度を高める方法に加え、インナーコミュニケーションを通じて経営理念に共感してもらうことで、社員に「自社のファン」になってもらえれば、長く勤務してもらえる可能性が高まるのです。

参考:平成30年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)

インナーコミュニケーションに課題を感じている企業は7割

人材の流動性が高まったことで、インナーコミュニケーションの重要性が企業に浸透してきました。しかし企業は、インナーコミュニケーション活性化に向けて具体的な取り組みを行っているのでしょうか。ProFuture株式会社が運営する研究機関である「HR総研」が2019年に実施した「社内コミュニケーションに関する調査」から、その取り組み実態が読み取れます。


参照:ProFuture株式会社/HR総研:「社内コミュニケーションに関する調査」結果報告

まず、「社内コミュニケーションに課題があると思うか」という問いでは、全体で約3割の企業が「大いにある」と回答しました。また、「ややそう思う」の回答数を含めると、全体の約7割強が社内コミュニケーションに課題を感じていることがわかります。従業員数1001名以上を抱える大きな企業では、その特徴が顕著です。

こうした実情を受け、企業はどのような策を講じているのでしょうか。以下の表にまとめています。


参照:ProFuture株式会社/HR総研:「社内コミュニケーションに関する調査」結果報告

最も回答数が多かった施策は、「コミュニケーション研修」、次いで「従業員アンケート」でした。一方、1割を超える企業が「特にない」と回答している点にも注目です。社内コミュニケーションに課題を感じているにもかかわらず、対策を講じていない企業は、従業員満足度の低下や貴重な人材の流出を招く可能性が高まるため、早急に対策を練る必要があるでしょう。

インナーコミュニケーションに取り組むメリット

これまで、「総人口の減少による人材の流動性の高まり」が企業にとって大きな課題であることを解説してきました。しかし、インナーコミュニケーションの活性化はこの課題を解消してくれるだけではありません。次は、インナーコミュニケーション活性化がもたらす企業のメリットについて解説します。

コミュニケーション改善による「離職率の低下」と「モチベーション向上」


参考:『-平成 29 年雇用動向調査結果の概況-』厚生労働省

職場の人間関係は、退職の理由としても決して見逃せない要因のひとつです。厚生労働省が公表した「平成29年雇用動向調査結果」によると、男性の1割、女性だと2割程度の人材が「職場の人間関係が好ましくなかった」と回答しています*。

多くの回答を集めた「労働時間や休日」「給与」を改善するためには、社内風土や制度の改革や生産性向上が必要であり、改善できるまで長い時間がかかります。しかし人間関係は、社員一人ひとりの意識や言動を変えるだけで改善できる要素です。同時に、日常的なコミュニケーションが改善されることで士気を下げるやり取りの減少が見込めるため、モチベーション向上にもつながるでしょう。

*「その他(出張等を含む)」「定年・契約期間満了」を除いた回答項目の割合

スムーズな情報共有の実現による「労働生産性の向上」

企業内での情報共有が上手くいないと、業務進行に悪影響を及ぼします。特に近年は、女性や高齢、外国人労働者の人数も増加しており、企業はどんな価値観を持った人とでも円滑なコミュニケーションが取れる環境の整備が必要です。

また、情報共有が難しくなっている理由は、多様な人材の増加だけではありません。一億総活躍社会を目指すために政府が打ち出した「働き方改革」のもと、「働く場所や時間」も多彩になりつつあるからです。これまで、仕事をするためには、定められたオフィスに出社することが当たり前でした。しかし現在は、遠方に住んでいることが原因で希望の企業で働けない、子供の世話をしなければならない、といった「場所や時間の制約」によって働けなかった人材を活用するために、さまざまな制度改革が進んでいます。

たとえば、オフィスに出社しなくて遠隔で作業することが許される制度「リモートワーク」や、通勤をはじめとした時間短縮のための拠点「サテライトオフィス」などが挙げられます。こうして遠方にいる社員とも円滑にコミュニケーションが取れるようになれば、さらに多くの優秀な人材を雇用でき、企業の成長を促せるようになるのです。

インナーコミュニケーションを活性化させる手法

インナーコミュニケーションを活性化させると「離職率低下やモチベーション向上」、「労働生産性の向上」といったメリットを得られることがわかりました。しかし、どのような手法を用いれば、インナーコミュニケーションは活性化するのでしょうか。次に、インナーコミュニケーション活性化に効果がある手法をいくつかご紹介します。

研修やレクリエーション、表彰式。目的に合わせて活用できる「社内イベント」

インナーコミュニケーションを活性化させる定番の手法が「社内イベント」の実施です。コミュニケーション方法を学ぶための研修や、社員同士の交流を生み出すレクリエーション、全社員を集めての総会など、目的に合わせてさまざまな形式があります。

HR総研の同調査では、「コミュニケーション不全の防止・抑制のために実施していること」と「特に効果があったと思われる施策」の2項目において、社内イベントのひとつ「コミュニケーション研修」がトップでした。社内イベントは準備に時間がかかりますが、社内への影響が強い手法です。インナーコミュニケーション活性化に取り組む際は、ぜひ最初に検討してみましょう。

アナログとデジタルを上手く使い分ける「社内報」

「社内報」は、企業からのメッセージを発信する媒体として効果的です。企業規模が大きくなるほど、経営層のメッセージは現場に届きにくくなってしまいます。社内報では、経営層が企業活動を通して目指している未来像や、異なる部署の社員がどのように働いているのかを発信でき、社員の目線を合わせることで、全社の一体感を作れます。

社内報を冊子で制作して自宅に郵送すれば、社員の家族にも読んでもらえる可能性もあり、社員の活躍を家族に知ってもらうことで、従業員満足度の向上も期待できます。また、近年はウェブサイトを使った社内報も増えています。冊子などのアナログな方法では取得しにくかった「実際に読まれたかどうか」のデータも、ウェブサイトなら簡単にデータ取得と分析ができ、発信内容の改善に活用可能です。

表現の自由度が高いアナログの手法と、データ活用が可能なデジタルの手法を使い分けたり、時に併用したりすることで、効果的な情報発信ができるようになります。

制度とあわせて交流を促進する「オフィス環境の整備」

上記手法に加え、オフィス環境の整備でもインナーコミュニケーションの活性化は実現できます。例えば、社内に定位置を決めずに自由な場所で業務を行える「フリーアドレス制度」を整備することで、自然なコミュニケーションを生み出せるでしょう。

また、オフィスレイアウトも社員同士の交流を促進する重要な要素です。たとえば、一般的な執務スペースに加え、リラックスしながら業務ができるカフェスペースのようなエリアを用意することで、普段接する機会のない社員同士の会話が生まれ、課題を解消できたり、新しいビジネスチャンスを見つけられたりする可能性もあります。

このように、インナーコミュニケーションを活性化させる手法は、「社内イベント」や「社内報」だけではなく、オフィス環境の整備など数多くあるため、目的や予算、企業規模といった状況を踏まえて、効果的な手法を選択するとよいでしょう。

インナーコミュニケーション活性化への
取り組み事例

インナーコミュニケーションの重要性が増しているなか、多くの企業がその活性化を実現するために取り組んでいます。最後に、インナーコミュニケーション活性化に意欲的に取り組んでいる企業の事例を紹介します。

【ハンバーガーチェーン】クロスメディアを活用してメッセージを発信

大手ハンバーガーチェーンでは、情報を発信する際、ウェブやメール、イベントなど、複数のメディアを活用しています。同社における情報の受け手は社員だけではなく、年齢層も幅広い全国のアルバイトも含まれているため、一人ひとりに適したメディアを用いることで、情報を届きやすくすることが目的です。

ほかにも、社内報の内容を社員向けとアルバイト向けで分けたり、定期的に経営層が参加するミーティングを開催したりするなど、企業の考えがそれぞれの関係者に浸透しやすくなるように配慮されています。

参照:日本マクドナルドが語る14万人の心をつなぐクロスメディアの社内広報

【食品メーカー】イントラネットで見てもらう仕掛けを作る

某食品メーカーでは、イントラネットを通じて企業の状況を発信しています。情報を発信するだけではなく、読まれるための仕組みづくりに注力している点がポイントです。社用PCを立ち上げた際にイントラネットが表示されるように設定したり、それでも読まれないときのために社内掲示を行ったりするなどの工夫を凝らしています。

社内報を読んでもらうために注意すべき点は、「発信する情報が、社員の行動をより良い方向へ変えていく価値があること」です。価値のない情報ばかり発信してしまうと、情報の受け手に飽きられてしまう危険性もあります。読まれる工夫だけではなく、情報の内容も洗練させていく必要があることを忘れないようにしましょう。

インナーコミュニケーション活性化は
企業の成長に不可欠

インナーコミュニケーションの活性化は、これからも成長を目指す企業にとって必要不可欠でしょう。特に、順調に成長を続け、従業員数が増えている企業では、「知らない人が増えた」「あの人は何をやっているのかわからない」という状況に陥ってしまうケースも少なくありません。インナーコミュニケーションの活性化は、こうした部門間や上下関係におけるコミュニケーション不足を解消し、社内に一体感をもたらします。

コミュニケーションを円滑にして労働生産性を上げ、さらなる成長を目指すためにも、ぜひインナーコミュニケーションの活性化に取り組んでみてください。

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