部下の指示待ち姿勢や離職率の高さに悩み、仕組みとして社員の意欲を高めたいと考えている担当者は少なくありません。
この記事では、ワークモチベーションとは何かという基礎的な定義から、マネジメントに活用できる代表的な理論、チームの意欲を引き出す具体例までを解説します。
自社の課題に合わせた向上施策を立案・実行できる状態を目指せます。
この記事でわかること
・行動の質と量を決定づけるワークモチベーションの基礎定義
・施策検討の土台として知っておくべき代表的な心理学理論
・調査データが浮き彫りにする社員の意欲低下リスクとマネジメント課題
・チームの意欲を組織的に引き出すために講じるべき具体的な向上策
ワークモチベーションの基礎知識
ワークモチベーションとは、ビジネスの文脈で使われる心理学の用語で、日本語では「仕事に対する意欲」や「動機づけ」と訳されます。
従業員が自らの目標や組織のゴール達成に向けて、意欲的に行動するための原動力となる心理的なエネルギーを指します。
単なる「やる気」といった一時的な感情だけでなく、行動を開始し、維持・調整するまでの一連のプロセス全体を含む概念です。
ワークモチベーションが意味する定義
ワークモチベーションの定義は多くの研究者によって提唱されていますが、組織心理学者のテレンス・R・ミッチェルによる定義が広く知られています。
ミッチェルは、ワークモチベーションを「目標に向けて行動を方向づけ、活性化し、維持する一連の心理的プロセス」と定義しました。
これは、従業員が特定の業務に取り組むかどうかを決定し、その業務にどれだけの熱意を注ぎ、困難に直面しても諦めずに努力し続けるか、という心理的な動き全体を捉えたものです。
意欲的な行動を促す3つの構成要素
ミッチェルは、ワークモチベーションが3つの要素で構成されると提唱しました。
これら3つの要素が相互に作用し、従業員の行動の質と量を決定します。
1.方向性(Direction):数ある選択肢の中から、どの目標に向かって行動を起こすかという選択の側面です。
「今日はどの業務から着手するか」「キャリアアップのために何を学ぶか」といった、エネルギーを注ぐ対象を定める働きをします。
2.強度(Intensity):選択した目標達成のために、どれほどの努力やエネルギーを投入するかという量の側面です。
同じ業務に取り組むにしても、集中して全力で取り組むか、ほどほどに済ませるかといった、努力の度合いがこれにあたります。
3.持続性(Persistence):目標達成に向けて、困難や障害があっても努力をどれくらいの期間継続できるかという時間的な側面です。
すぐに諦めてしまうか、粘り強く最後までやり遂げるかといった、忍耐力や継続力に関わります。
組織マネジメントに活用できるワークモチベーションの代表理論
ワークモチベーションに関する心理学の理論は、組織運営や人材マネジメントに応用できる多くの示唆を与えてくれます。
代表的な理論を理解することで、従業員の意欲を引き出すための多角的な視点が得られます。
これらの理論を背景に施策を検討することで、より納得感のあるアプローチが可能になります。
人間の欲求段階に着目した「マズローの欲求5段階説」
アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した理論で、人間の欲求は「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認の欲求」「自己実現の欲求」の5段階のピラミッドで構成されると説明します。
低次の欲求が満たされると、より高次の欲求を求めるようになるとされています。
マネジメントにおいては、給与や雇用の安定といった低次の欲求を満たすだけでなく、良好な人間関係の構築や、仕事を通じた自己成長の実感といった高次の欲求を満たす働きかけが、従業員の意欲向上に繋がります。
仕事の満足要因を整理した「ハーズバーグの二要因理論」
アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した理論です。
仕事への満足度を高める要因(動機づけ要因)と、不満を解消する要因(衛生要因)は別のものであると説きます。
動機づけ要因には、達成感や承認、仕事そのものの面白さなどがあります。
一方、衛生要因には、給与、労働条件、人間関係などが含まれます。
この理論から、給与や労働条件を改善するだけでは不満は解消されても満足度は向上せず、真の意欲向上には仕事のやりがいや成長実感が必要であることがわかります。
自律的な意欲を重視する「自己決定理論」
心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した理論で、人間は生まれながらに持つ「自律性」「有能性」「関係性」という3つの心理的欲求が満たされることで、内発的なモチベーションが高まると考えます。
自律性は「自分の行動を自分で決めたい」、有能性は「能力を発揮して貢献したい」、関係性は「他者と尊重し合える関係を築きたい」という欲求です。
部下に裁量権を与えたり、フィードバックを通じて成長を実感させたりすることが有効です。
人間観の違いに基づく「マグレガーのX理論・Y理論」
アメリカの経営学者ダグラス・マグレガーが提唱した、人間に対する二つの対立的な人間観に基づくマネジメント理論です。
「X理論」は、人間は本来働くことが嫌いで、命令や強制がなければ仕事をしないという見方に基づき、アメとムチによる管理を重視します。
「Y理論」は、人間は生まれながらに自己実現を求め、条件が整えば自律的に行動するという見方に基づき、権限委譲や目標管理を重視します。
Y理論に基づいたマネジメントが、従業員の自律的なワークモチベーションを引き出す上で効果的とされています。
調査データから見るワークモチベーション低下の実態
企業が持続的に成長するためには、社員一人ひとりのモチベーション向上が不可欠です。
JTBコミュニケーションデザインの「仕事に対するモチベーション実態調査」によると、多くの社員が仕事への意欲に課題を抱えている実態が明らかになりました。
この研究データから、現代の職場におけるワークモチベーションのリアルな課題が見えてきます。
ワーク・モチベーション研究所については「ワーク・モチベーション研究所の活動紹介」で詳しく紹介しています。
意欲低下によって転職を検討する社員は6割に達する実態
同調査によると、回答者の多くが仕事に対する意欲が低下した際に転職を検討した経験があるとされています。この結果は、ワークモチベーションの低下が、単なる生産性の問題にとどまらず、優秀な人材の流出という経営上の大きなリスクに直結することを示唆しています。社員の意欲低下のサインを見逃さず、早期に対策を講じることが、離職防止の観点からも極めて重要です。
ライフイベントや異動によって重視する項目が変わる傾向
社員が仕事において何を重要視するかは、常に一定ではありません。
調査では、仕事で重視する項目が変化したきっかけとして、「異動や昇進」(44.2%)、「転職」(27.2%)が上位に挙げられました。
また、「結婚」(21.4%)や「出産」(16.3%)といったライフイベントも大きな影響を与えることがわかります。
年代別に見ても、20代・30代では「昇進・昇格」が重視される一方、40代以降では「報酬」や「人間関係」への関心が高まる傾向があります。
社員の状況に応じた個別のアプローチが求められます。
画一的な叱咤激励では改善しにくい現場の課題
部下の意欲が低下した際の上司の対応について尋ねた調査では、「特に何もしない」が37.6%で最多となり、多くのマネージャーが有効な手を打てていない現状がうかがえます。
次いで「時間を設け、相談に乗る」が17.8%でしたが、「叱咤激励する」という対応も7.2%見られました。
しかし、叱咤激励や飲み会への誘いといったアプローチは、受け取る社員によっては逆効果になる可能性もあり、一概に有効とは言えません。
チーム全体に同じ対応をするのではなく、個々の価値観や状況を理解した上での慎重なコミュニケーションが不可欠です。
チームのワークモチベーションを高める具体的な施策
調査データが示すように、画一的なアプローチではチームのワークモチベーション向上は困難です。
社員一人ひとりの価値観や状況の変化を捉え、公平性と納得感を土台とした多角的な施策を展開する必要があります。
ここでは、具体的な施策の例を5つ紹介します。
公平で納得感のある評価基準を設ける
社員が「正当に評価されていない」と感じることは、モチベーション低下の大きな原因となります。
評価基準(尺度)を明確にし、誰が見ても公平で納得できる制度を構築することが重要です。
評価項目、基準、プロセスを全社員に公開し、透明性を確保します。
また、評価結果については具体的な根拠とともにフィードバックを行い、本人の成長に繋がる対話の機会とすることが求められます。
定期的な個別面談により価値観を把握する
社員が仕事に求めるものは、キャリアの段階やライフイベントによって変化します。
1on1ミーティングなどの個別面談を定期的に実施し、社員一人ひとりの価値観やキャリアプラン、現状の課題などを丁寧にヒアリングする機会を設けましょう。
例えば、上司が部下の「プライベートを充実させたい」という価値観を把握していれば、過度な残業を強いるのではなく、生産性を高めるための支援をするといった適切な対応が可能になります。
表彰制度や社内プロジェクトへの抜擢を取り入れる
金銭的な報酬だけでなく、承認欲求を満たす非金銭的な報酬もモチベーション向上に効果的です。
例えば、優れた成果を上げた社員やチームを表彰するアワード制度を導入したり、本人の意欲や適性を見極めて重要な社内プロジェクトのメンバーに抜擢したりすることが挙げられます。
これにより、社員は「会社から認められている」「期待されている」と感じ、より一層の貢献意欲を高めます。
自律的な成長を促す研修機会を提供する
社員が自らの成長を実感できる機会を提供することも重要です。
自身のモチベーションの源泉を理解し、セルフコントロールスキルを習得する「セルフモチベーション研修」や、部下の意欲を引き出すマネジメントスキルを学ぶ「チームマネジメント研修」などが具体例として考えられます。
社員が自律的にキャリアを築き、能力を高めていける環境を整えることで、仕事への意欲を自然に引き出すことができます。
職場環境を整備して業務上の不満を解消する
ハーズバーグの二要因理論における「衛生要因」の改善も忘れてはなりません。
長時間労働の是正、コミュニケーションを円滑にするためのツール導入、快適なオフィス環境の整備など、日々の業務におけるストレスや不満を解消する取り組みを進めます。
これらの基盤が整っていなければ、いくら動機づけ要因に働きかけても十分な効果は得られません。
社員が心身ともに健康で、安心して業務に集中できる環境づくりが土台となります。
社員のワークモチベーションを引き出す効果的な解決ロジック
表面的な施策だけでは、社員の意欲を本質的に高めることは困難です。
長年の研究に基づいた科学的なアプローチを取り入れることで、より効果的で持続可能な解決策を見出すことができます。
ここでは、JTBコミュニケーションデザインが提唱するモチベーション理論に基づいた解決ロジックを紹介します。
意欲の源泉を把握する11の「モチベータ」の特定
人のやる気の源泉は一つではありません。
JTBコミュニケーションデザインでは、モチベーションに影響を与える要因を11のモチベータに分類しています。
これには、報酬や昇進昇級といった外的な要因だけでなく、職務管理、自己表現、人間関係といった内的な要因も含まれます。
専用のサーベイを用いてこれらのモチベータへの関心度と満足度を測定し、個々の社員や組織全体の意欲の源泉を可視化することで、どこに課題があるのかを的確に把握できます。
個人への働きかけに加え組織風土の変革を進めるアプローチ
社員個人のモチベーションは、その人を取り巻く組織や人間関係に大きく影響されます。
そのため、個人のセルフコントロールを促す研修などと並行して、チームや組織全体の風土を変革していくアプローチが不可欠です。
例えば、個人の診断結果を組織単位で集計・分析し、部門ごとの課題を特定します。
その上で、管理職が部下のモチベーション特性を理解し、適切なマネジメントを実践するための研修を実施するなど、個人と組織の両面から働きかけることで、相乗効果が生まれます。
ワークモチベーションに関するよくある質問
ここでは、ワークモチベーションに関して人事担当者やマネージャーから寄せられることの多い質問とその回答を紹介します。
基本的な定義の確認から、現場での具体的な対応まで、実践的な知識を整理します。
ワークモチベーションは従業員エンゲージメントとどう異なりますか?
ワークモチベーションは「仕事への意欲」という個人の心理的なエネルギーを指すのに対し、従業員エンゲージメントはその意欲が組織の目標達成に向けられている状態を指します。
エンゲージメントは、個人と組織の結びつきの強さを示す概念であり、貢献意欲や組織への愛着を含みます。
モチベーションはエンゲージメントの重要な構成要素の一つですが、必ずしも組織の方向性と一致しているとは限りません。
社内のワークモチベーションを客観的に測定する指標はありますか?
はい、あります。
JTBコミュニケーションデザインが提供する「やる気分析サーベイシステム(MSQ)」のような専門的なツールを用いることで、社員のワークモチベーションを客観的な尺度で測定できます。
このサーベイは、モチベーションの高さを指数化するだけでなく、その背景にある要因(モチベータ)への関心度や満足度を分析し、個人および組織の課題を可視化します。
モチベーション診断については「モチベーション診断サーベイシステム」で詳しく紹介しています。
意欲が低下している部下に対して上司が取るべき初動は何ですか?
まずは、個別に時間を設けて丁寧に話を聞くことが重要です。
調査データからも「時間を設け、相談に乗る」対応は一定の効果が見られます。
叱咤激励などの画一的な対応ではなく、本人が何に悩み、仕事に何を求めているのかを理解しようと努める姿勢が信頼関係を築きます。
その上で、本人の価値観や状況に合わせたサポートを検討することが有効です。
まとめ
ワークモチベーションとは、単なるやる気ではなく、目標達成に向けた行動を方向づけ、維持する心理的なプロセス全体を指します。
その向上には、マズローやハーズバーグなどの理論的背景を理解した上で、画一的な対応ではなく、個々の社員やチームの状況に合わせた多角的な施策が求められます。
客観的なサーベイなどを活用して課題を可視化し、個人と組織の両面からアプローチすることが、持続的な意欲向上につながります。
社員のモチベーションを可視化して改善へ導く支援サービス
社員の意欲低下は、目に見えにくく、感覚的な対策に陥りがちです。
JTBコミュニケーションデザインでは、長年の研究と実績に基づいた科学的なアプローチで、モチベーションの課題を可視化し、具体的な改善策へと導くサービスを提供しています。
モチベーション向上施策については「モチベーション向上ソリューション」で詳しく紹介しています。
やる気を多角的に数値化するサーベイ「MSQ」
「やる気分析システム(MSQ)」は、日本で初めてモチベーションを数値化した分析ツールです。
146の設問から、ワークモチベーションの高さを100点満点で示す「モチベーション・チャージ」や、意欲の源泉となる11の「モチベータ」への関心度・満足度を分析します。
これにより、従業員一人ひとりのやる気の特性や、組織が抱える課題を客観的な尺度で明確に把握することが可能になります。
当社のモチベーション支援サービスが選ばれる理由
JTBコミュニケーションデザインのサービスは、学術的な研究に裏打ちされた信頼性と、豊富な実績に支えられた実践的なソリューション提供を強みとしています。
30年以上にわたる研究実績と10万人を超える豊富な診断データ
当社のモチベーションメソッドは、立教大学名誉教授をはじめとする専門家チームとの共同研究開発から始まり、30年以上にわたり研究を継続しています。
1996年の「MSQ」リリース以来、1,000を超える組織、10万人以上の受検データを蓄積しており、この豊富なデータに基づいた精度の高い分析と、時代に即したソリューションの提供が可能です。
モチベーションメソッドについては「モチベーションメソッドの特長」で詳しく紹介しています。
個人・組織双方の課題を明確にするレポート体制
診断結果は、従業員一人ひとりの自己理解を促す「個人レポート」と、組織全体の傾向や部門ごとの比較分析が可能な「組織レポート」で提供されます。
これにより、個人のセルフマネジメントと、経営層や人事部による組織的な課題解決の両方に活用できます。
目に見えないモチベーションの状態を具体的な尺度で可視化することで、打つべき施策が明確になります。
診断結果に応じた実践的な階層別研修プログラムの提供
診断で明らかになった課題に基づき、具体的なアクションに繋げるための各種研修プログラムを提供しています。
例えば、若手・一般社員向けの「セルフモチベーション/コントロール研修」や、管理職向けの「チームモチベーション/マネジメント研修」など、階層や目的に応じたプログラムを用意。
診断から改善、定着までを一貫して支援する体制が整っているのが強みです。
資料をダウンロードする
プログラム/ツール一覧
メルマガ登録
人気資料一括ダウンロード
お役立ち資料・動画
各種相談・お問い合わせ