私たちを取り巻く環境変化はめまぐるしく、企業の経営課題も絶えず変化し、中期経営計画は1年間で消費期限を迎えると言われるようになってきました。環境変化に対処し、持続可能な組織にするためには、従来の慣例や慣習に捉われることなく、新たな視点で経営戦略や人材戦略を見つめ直すことが必要です。多様な人材の能力や特性を最大限に活かす「ダイバーシティ経営」が、企業の新たな価値創造に繋がります。ダイバーシティについての理解を深めて、組織による重点施策の1つとして、ダイバーシティに取り組むとどんないいことがあるのかをシリーズでお伝えしていきます。
第1回目は、ダイバーシティに関する基礎知識「ダイバーシティの意味と社会的背景と価値観の変化への対応」についてご案内いたします。

1.ダイバーシティとは
(1)ダイバーシティの意味
ダイバーシティを直訳すると、「多様性」となります。広義では、あらゆる人々が共存・共生できる社会を創造するという理念を表します。一言で「多様性」といっても、目に見えるもの(国籍・年齢・障害など)と目に見えないもの(価値観・性格・習慣など)があります。社会生活においてだけでなく、組織内においても雇用形態や職種など多様性に富んでいます。そこに目を向けて、組織に内在する人材をどのように活かし、活躍の場を提供し、活躍し続けてもらえる環境を整備できるのかが組織基盤づくりと強化になるという考え方になります。
(2)ダイバーシティを分類でとらえて理解する
組織に影響するものを分類すると2つに分けられますが、1つは「①人権の尊重」、もう1つは「②組織管理」となります。
①人権尊重の観点
不変的なものと可変的なものに大別されます。不変的なものは、生来的に備わっている年齢、性別、人種
などの身体的特徴や、出生地など自分の意思で変えられない、変えにくいものを差します。可変的なもの
は、居住地、生活様式、趣味嗜好は自分の意思で変えることができるものを差します。1人の人が複数の
属性に分類される要素を兼ね備えていることから、単純に決めつけることなく、個を尊重しようとする意
識で人を問う姿勢が求められます。
②組織管理の観点
目に見えるものは、①「不変的なもの」と同様にして年齢、性別、人種、身体的特徴などの外見的に識別
できるものです。目に見えないものは、経歴、保有知識やスキル、価値観など外見的に識別できないもの
を差します。とかく、対面での交流機会の減少などにより、目に見えない部分の把握することが困難にな
りつつあります。目に見えないものをどのように把握して、多様性を活かしてもらえるようにするのかが
課題となります。
(3)多様性を活かそうとする取り組み(①と②を踏まえて)
多様性の存在を認知したら、否定や排他的になるのではなく、肯定的に受け止め「誰もが活かされる強みを持っている」と考え方を変えることです。異質なものは排除して、強いものが生き残るような組織では将来的に衰退してしまうからです。多様な「強み」を活かすために、「対立」を許容し、建設的な議論をします。その過程において一体感を味わい、結束力を強めるプロセスを経験することが競争優位性を持つ組織づくりに役立ちます。
ダイバーシティは、解決すべき「問題」ではなく、「個を活かすための取り組み」です。多様な価値を戦略的に位置づけることで、組織は変化に強く、持続的な競争優位を築くことができます。今こそ、多様性を“リスク”ではなく“成長の源泉”として捉える視点が求められています。
2.ダイバーシティに関心を寄せる背景
労働人口の推移による量的・質的変化は特筆すべき点です。
今後の見通しとして、日本の総人口は減少を続け、2030年代以降は労働力人口も本格的に減少傾向に入ると予測されています。こうした構造的課題に対応するため、政府は「女性・高齢者・外国人の活用」と「DXによる生産性向上」を重点施策に掲げています。企業にとっても、これらの変化を前提にした戦略的な人材活用と組織変革が不可欠です。
<日本の総人口10年間の推移(2014~2024年>
2014年から約350万人増加していますが、高齢層の増加が主な要因となっています。
2014年:6,609万人→ 2018年:6,849万人→ 2020年:6,902万人→ 2022年:6,902万人→ 2024年:6,957
万人
一方で、政府や公的機関の最新資料によると、労働力人口は基本的には減少傾向ですが、政策や労働参加率の改善によって一時的に増加するシナリオも示されています。
(1)厚生労働省・労働政策研究機構(JILPT)の推計による労働力人口予測
厚生労働省・労働政策研究機構(JILPT)の推計によると、日本の労働力人口は長期的には減少傾向ですが、女性や高齢者の労働参加が進めば、2030年時点で一時的な増加が見込まれています。これは、人口減少という構造的課題に対して、労働参加率の改善がどれほど重要かを示すものです。
A.現状維持シナリオ
2022年:6,902万人→2030年:6,556万人→2040年:6,002万人
※減少が続くというシナリオ
B.成長実現・労働参加進展シナリオ
2030年:6,940万人(増加)→2040年:6,791万人(減少幅縮小)
※女性・高齢者の労働参加が進めば、2030年時点で増加が見込まれる
(2)パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計2035」による労働力人口予測
パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計2035」によると、就業者数は今後増加する見込みです。
しかし、働き方改革や高齢化に伴う労働時間の減少により、総労働力は不足し、需給ギャップが拡大すると予測されています。
A.就業者数の推移(予測)
2023年:6,747万人→2030年:6,959万人→2035年:7,122万人
※労働人数は増加傾向
B.課題:労働時間の減少
2035年には 1日あたり1,775万時間不足
※働き方改革や高齢化で労働時間が減り、総労働力は不足すると予測
働く人数が一時的に増加しても、働き方改革や高齢化に伴う労働時間の減少により、労働力不足は避けられないようです。こうした需給ギャップを解消するためには、生産性向上と多様な人材の活用が不可欠です。企業は、ダイバーシティとDXを成長戦略の中核に据えることで、持続可能な競争力を確保する必要があります。
3.働く意義や価値観の変化への対応
トランプ政権の政策転換を背景に、働く意義や価値観に揺り戻しが起きています。社会的背景と現場の声を踏まえ、企業は形式的な取り組みから脱却し、納得感のある制度設計を求められています。
(1)トランプ政権によるDEI(多様性・公平性・包摂性)政策の転換
2025年1月、トランプ大統領は連邦政府のDEI(多様性・公平性・包摂性)プログラムを廃止する大統領令に署名し、民間企業にもダイバーシティ撤廃を働きかける方針を示しました。背景には「逆差別」批判や、形式的な取り組みへの不満があり、能力主義への回帰を強調する動きが加速しています。
(2)働く価値観・意義の変化
米国では「多様性疲れ」という現象が報告され、過剰なイベントや啓発活動が本業を阻害するとの声が増えています。一方で、ダイバーシティ撤退はLGBTQや黒人コミュニティなどの購買力や企業ブランドに悪影響を与える可能性が指摘され、企業は社会的責任と経済的リスクのバランスを再考する段階にあります。
(3)日本企業への示唆
トランプ政権の政策転換は「行き過ぎ」との批判もあり、米国では形式主義から脱却し、現場との対話を重視する動きが強まっています。日本はジェンダーギャップ指数で世界的に遅れており、人口減少・高齢化の中で多様な人材活用は不可欠です。アメリカの反動は、「見せるための施策」から「納得感ある制度設計」への転換の重要性を示しています。
人口減少や働き方の変化が進む中、企業には「見せるための取り組み」から一歩進んで、「現場で納得できる仕組みづくり」が求められています。多様な人材を活かすことは、単なる選択肢ではなく、組織を強くするための大切な戦略です。ダイバーシティへの取り組みは、変化に負けない、しなやかな企業へと成長につながるものであり、今こそ、形式ではなく本質に目を向ける時ではないでしょうか。
次回、2回目は、「ダイバーシティは何から始めたらいいのか」について考えていきます。

HRコンサルティング事業局
コンサルタント 井内 郁子
大学卒業後、保険会社営業職を経て、国内航空会社国際線客室乗務員として乗務しチーフパーサーおよびパーサーとして機内サービス業務に付随したマネジメント業務に携わる。2003年からコンサルタントとしての活動を始動し、階層別研修を実施。新人から役員に至るまで幅広く対応している。顧客ニーズに応じてカスタマイズを行い高確率のリピート率を保持。昇進昇格に関わる評価者として選抜アセスメントにも従事。現在では人材育成・組織開発分野に深く携わり、現状分析に基づく課題特定・解決案策定と実行支援を担っている。
資格:DiSCCERTIFIEDTRAINER/ProfileXT認定/CheckPoint360°認定/国内養成機関プロコーチ、産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント/NLPマスタープラクティショナー/交流分析士1級 他
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- 人と組織
- 2025/12/08








