DEIB(ダイバーシティを含む概念)の基礎知識②
~ ダイバーシティ導入の第一歩として、何から始めるべきかを決める ~

 私たちを取り巻く環境変化はめまぐるしく、企業の経営課題も絶えず変化し、中期経営計画は1年間で消費期限を迎えると言われるようになってきました。環境変化に対処し、持続可能な組織にするためには、従来の慣例や慣習に捉われることなく、新たな視点で経営戦略や人材戦略を見つめ直すことが必要です。多様な人材の能力や特性を最大限に活かす「ダイバーシティ経営」が、企業の新たな価値創造に繋がります。ダイバーシティについての理解を深めて、組織による重点施策の1つとして、ダイバーシティに取り組むとどんないいことがあるのかをシリーズでお伝えしていきます。

 第2回目は、「ダイバーシティは何から始めたらいいのか」についてご案内いたします。

1.ダイバーシティを手掛ける手順

 ダイバーシティの重要性や導入の意義は広く認識されるようになった一方で、現場では「どこから始めればよいのか」という課題感が根強く残っています。制度を整えるだけでは十分ではなく、組織文化として根づかせる視点が欠かせません。にもかかわらず、「最初の一歩が見えない」「施策を並べても現場が動かない」など、依然として、多くの企業が同じ壁に直面しています。
 特に近年は、人的資本情報開示の義務化や多様な働き方の普及により、表面的な制度導入だけでは評価が得られず、実効性ある取り組みが求められるようになりました。この中でよく起こるのが、制度導入を急ぐあまり、現場の理解や文化醸成が追いつかず、結果として施策が形骸化してしまうケースです。
 こうした状況を避けるためには、最初のステップを慎重に見極め、組織全体を巻き込んで進めることが不可欠です。一方で、成果を上げている企業は、現状把握と経営層のコミットメントを揺るぎない土台として置き、文化づくりと制度整備を両輪で進めているという共通点があります。
 そこで本稿では、現状の企業環境や制度を踏まえつつ、今後に向けて、ダイバーシティをスムーズに導入するための具体的なステップをご紹介します。実践につながるヒントとして、ぜひお役立ていただければ幸いです。

【ステップ1】現状把握(人事データから読み解く課題の見える化)

 ダイバーシティ推進の第一歩は、「自社の現状を正しく把握すること」です。この土台が曖昧だと、施策が的外れになり、現場の負担や混乱を招くことがあります。それらを防ぐには、従業員データを「ただの開示のための数字」ではなく、「戦略に直結する指標」として扱っていくことが必要になります。例えば、「どの層が不足しているのか」「どの職位でキャリアが滞留しているのか」など、事業と人材育成の両視点から分析することが重要です。

①従業員構成の分析
 ・性別・年齢の偏り
 ・雇用形態のバランス
 ・障がいの有無や国籍など、多様な人材の構成
 こうした分析は、組織が抱える構造的な偏りや課題を可視化する上で重要です。
 (例:女性のリーダー層が十分に育たずある階層から減少する、若手離職が特定部署に偏る など)

②心理的安全性やインクルージョンの現状把握
 数字には現れない「声なき課題」を捉えることも不可欠です。
 ・アンケートやヒアリング
 ・部門・職位間のギャップ分析
 次年度に向けては、自由記述の活用や座談会など、「声なき声を拾いに行く仕組み」が鍵を握ります。
 (例:リモート中心の社員が感じる情報格差や孤立感 など)

【ステップ2】経営層のコミットメント

 ダイバーシティ推進を成功させるためには、経営層の“本気度”が組織全体に伝わることが不可欠です。
「経営層の明確な意思表示」と「その意思を示す行動」の両方が求められます。

①「人事施策ではなく経営課題」という位置づけ
 多様性推進は以下の効果に直結する経営テーマです。
 ・意思決定の質向上
 ・イノベーションの創出
 ・持続的成長の基盤
 これらを実効性ある形にするために、経営会議の定例議題にDEIB指標を組み込み、採用・配置転換・評価などの主要な意思決定と連動させることが重要になります。

②経営理念・中期計画へのDEIB明記とトップメッセージ
 トップの発信は、現場の空気を大きく変える力を持っています。以下のような取り組みを積み重ねることで、現場の納得感と信頼を高めることができます。
 ・経営理念・中期計画に 「DEIBを明確に反映」
 ・メルマガ・動画配信・全社ミーティングなどによる「継続的なメッセージ発信」
 ・経営層自身による現場訪問、対話会参加、DEIB研修受講などの「行動で示す姿勢」

【ステップ3】重点テーマの設定

 ダイバーシティ推進は「全てに同時に取り組む」ものではありません。自社の課題と戦略に基づく重点テーマの再設定がポイントです。

①女性管理職比率の向上
 女性管理職比率を高めるには、単に「比率」を追うだけでなく、「昇進前の支援をどれだけ強化できるか」が成果を左右します。
 ・メンター制度
 ・ロールモデルの可視化
 ・キャリア面談の質向上
 こうした取り組みを組み合わせることによって、女性が管理職候補として成長しやすい環境づくりが促進します。

②男性育休取得率の向上
 男性育休の取得率向上に加えて、「復職後の働きやすさの整備」が取り組みテーマとなります。
 ・復帰後の勤務調整(段階的復職・柔軟なシフト)
 ・上司とチームの理解促進
 こうした制度面と周囲のサポートを一体で強化することで、男性が育休を取りやすく、また安心して現場に戻れる環境づくりが整備されます。

③障がい者・外国籍人材の活躍
 物理的なバリアフリーに加え、
 ・専門相談窓口
 ・ITアクセシビリティ
 日本語サポートなどのコミュニケーション支援といった、成果が出やすい“働き方レベル”の支援が重要になります。

④LGBTQ+対応
 制度整備だけでは定着しません。
 ・匿名相談窓口
 ・相談フローの明確化
 ・当事者の声をもとにした研修更新
 など、「安心して声を上げられる環境づくり」が求められます。

【ステップ4】制度と文化の両面から取り組む

 制度があっても使われなければ意味がありません。「制度を整える」から一歩進んで“制度を使える文化をどうつくるか”が重要テーマになります。

①制度面:働きやすさを支える仕組み
 ・リモート、フレックス、時短など柔軟な働き方
 ・公平な評価制度
 ・育児・介護・健康など多様な福利厚生
 これに加えて、制度が使われない理由(上司の理解・業務分担など)の分析と改善が鍵になります。

②文化面:意識と行動の変革
 ・アンコンシャス・バイアス研修
 ・心理的安全性をつくる管理職研修
 ・1on1やチーム対話の質向上
 制度と文化を「足し算」ではなく “掛け算” として捉え、効果を最大化していくことが求められます。

【ステップ5】KPI 設定と進捗公開

人的資本開示の重要性がさらに増す方向性にある中、“数字を示すだけでなく、背景と改善策まで一体で説明する”ことが信頼につながります。

①KPI 設定
 例:女性管理職比率・男性育休取得率・心理的安全性スコア・離職率、加えて、なぜその結果になったのか(因果)を施策とセットで説明することが求められます。

②進捗公開
 社内報・イントラネット
 ・社員Q&Aの機会
 ・サステナビリティレポートなど社外発信
 年次だけでなく四半期ごとの更新や双方向発信が効果的です。

 ダイバーシティ推進は、企業にとって「必ず取り組むべき重要課題」である一方、“最初の一歩をどこに置くか” が成功と停滞を分けるポイントになります。制度もテーマも数多く存在する中で、「どこから手をつければ効果が最大化されるのか」「限られたリソースで何を優先すべきか」と悩む企業は少なくありません。今後ますます加速する人的資本開示の本格化や働き方の多様化により、施策の“選び方そのもの”がより重要になっていきます。そこで、次に、確実に前進するための「最初の一歩」を選ぶためのポイントをご紹介します。

2.最初の一歩を決める

 ダイバーシティ推進は、いきなりすべてのテーマに取り組むのではなく、確実に成果につながる「一歩目」を戦略的に選ぶことが成功の鍵です。人的資本開示の義務化や働き方の多様化により、「何にまず取り組むべきか」を戦略的に選ぶ必要性が高まっています。そのために押さえたいポイントは次の3つです。

①現状把握+経営層のコミットメントから始める
 ダイバーシティ推進の最初の一歩は、自社の現状をデータとヒアリングで正確に把握することです。
 例えば、
 ・どの層に偏りがあるのか
 ・どの職位でキャリアの滞留が起きているのか
 ・心理的安全性の高低が部門ごとにどう異なるか
 といった点を可視化します。
 同時に、経営層が「ダイバーシティは経営課題である」という姿勢を明確に示すことが欠かせません。
 トップメッセージの発信に加えて、
 ・経営会議でDEIB指標を定例議題にする
 ・採用・配置・評価などの意思決定と DEIB を連動させる
 といった行動を伴うことが、現場の納得感や推進力を高めます。
 この「現状把握+経営層コミットメント」が揃わないと、施策は形骸化しやすくなるため、最初の重要なステップになります。

②インパクトの大きいテーマを1つ選ぶ
 すべての領域に一度に手を広げるのではなく、自社にとって“最も効果が大きく、変化に直結するテーマ”を一つ選ぶことが重要です。
 選定の基準は、
 ・「現状分析で明らかになった課題」
 ・「経営戦略や組織課題との整合性」
 の2軸で検討します。
 例として、企業規模や組織課題に応じて、以下のようなテーマが挙げられます。
 ・障がい者・外国籍人材の活躍(合理的配慮、ITアクセシビリティ、言語サポートなどの強化)
 ・LGBTQ+対応(制度整備に加え、匿名相談窓口の設置や相談フロー整備など)
 ・男性育休の定着と復帰支援
 ・女性管理職比率向上のためのパイプライン強化
 インパクトの大きいテーマを絞ることで、限られたリソースを効果的に活用できます。

③パイロット施策で試す
 選んだテーマでいきなり全社展開するのではなく、小規模なパイロット施策で試行し、効果検証を行うことがポイントです。
 パイロットの目的は、リスクを最小限にしながら実効性を確認することです。
 ・少人数・特定部署でのテスト運用
 ・成果と課題のフィードバック
 ・利用者・管理職・チームの声の収集
 ・成功要因・阻害要因の洗い出し
 これらの結果を踏まえて施策をブラッシュアップします。
 小さな成功体験が積み上がることで、組織全体の推進力が大きく高まるため、推進当初は、「スモールスタート+効果検証」が有効となります。

 ダイバーシティ推進は、取り組むテーマも施策も多岐にわたりますが、成果を生むためのスタート地点は明確です。
 ①現状を正しく理解し、経営層の本気度を示す
 ②自社の課題と戦略に合ったテーマを1つ選ぶ
 ③小さく試し、改善しながら全社に広げる
 この3ステップを押さえることで、ダイバーシティ推進は「やらなければならない施策」から「組織の成長を支える実効性ある取り組み」へと進化していきます。今後ますます、その変革のスピードがより強く求められるようになっていきます。“確実な一歩をいかに踏み出すか”が、組織の未来を大きく動かす力になります。

次回、3回目は、「ダイバーシティをどう浸透させるのか」について考えていきます。

HRコンサルティング事業局
コンサルタント 井内 郁子

大学卒業後、保険会社営業職を経て、国内航空会社国際線客室乗務員として乗務しチーフパーサーおよびパーサーとして機内サービス業務に付随したマネジメント業務に携わる。2003年からコンサルタントとしての活動を始動し、階層別研修を実施。新人から役員に至るまで幅広く対応している。顧客ニーズに応じてカスタマイズを行い高確率のリピート率を保持。昇進昇格に関わる評価者として選抜アセスメントにも従事。現在では人材育成・組織開発分野に深く携わり、現状分析に基づく課題特定・解決案策定と実行支援を担っている。
資格:DiSCCERTIFIEDTRAINER/ProfileXT認定/CheckPoint360°認定/国内養成機関プロコーチ、産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント/NLPマスタープラクティショナー/交流分析士1級 他
 

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