企業を取り巻く法改正に学ぶ<第6回>
採用力と人的資本を強化する厚生労働省認定マーク活用術

【クイズ】この認定マーク、ご存じですか??

【答え】
①「くるみん」 ②「えるぼし」 ③「ユースエール」 ④「もにす」

これらは、企業が働きやすい環境を整備し、従業員や社会に配慮した取り組みを行っていることを示す厚生労働省の認定マークです。
本コラムでは、人事、経営層向けに、各制度の背景や認定基準、取得メリットを整理して解説します。

Ⅰ.制度の背景

各種制度は、時代の変化や国の政策方針に合わせて法改正が進み、普及促進のための助成金や、取り組みを可視化、支援する認定マーク制度が整備されています。新制度の導入当初は大企業が中心でしたが、普及の進展に伴い、中小企業へも裾野が広がっています。

1.くるみん認定の背景

「くるみん」は、赤ちゃんを包む「おくるみ」に由来し、おくるみ+みんなで→くるみん。と名付けられました。
次世代育成支援対策推進法※に基づく認定制度で、企業が従業員の子育て支援に積極的に取り組み、一定の基準を満たした場合に厚生労働大臣が認定します。少子化が進む中、仕事と育児の両立支援や働きやすい環境整備を促進することが目的です。制度開始当初の2007年は認定社数が128社でしたが、その後着実に増加し、2020年3月末には3,312社、2025年2月末時点では4,943社に達しています。

▼次世代育成支援対策推進法の法改正(一般事業主行動計画の義務対象の推移)
 ・施行当初は「常時雇用する労働者が301人以上」の企業に、一般事業主行動計画の策定、届出、周知、
  公表を義務付け。
 ・2011年の改正で、義務対象を「101人以上」に拡大。
 ・2025年4月1日施行の改正では、くるみん認定基準の見直しに加え、「101人以上」の企業に対し、行動
  計画の策定、変更時における現状把握(例:男性の育児休業の取得率など)と数値目標の設定を義務
  化。
  ※従業員100人以下の企業は引き続き努力義務ですが、くるみん認定を申請する場合は行動計画の届
   出、情報公開が前提となります。

【主な評価の観点】
 ・育児休業の取得状況
 ・男性育児休業の取得促進(取得率・周知・環境整備)
 ・短時間勤務、フレックスタイム等の柔軟な勤務制度の導入
 ・行動計画策定指針に照らし適切な行動計画の策定と目標の達成

【上位制度の創設】
 育児支援の一般化を背景に、特に優れた取り組みを行う企業を促す目的で、2015年に不妊治療と仕事の
 両立を支援するために、上位制度として「プラチナくるみん」が創設。あわせて2022年にはエントリー
 制度として「トライくるみん」も設けられて、育児支援のモデルとなる企業の裾野拡大が図られていま
 す。プラチナくるみんは、マントと王冠が特徴のマーク。カラーは名前の通りプラチナ色です。マント
 の色は12色あり、プラチナくるみんの認定企業は、12色どの色でも使用することができます。

【認定件数】
 ・くるみん:4,943社(2025年2月時点)
 ・プラチナくるみん:714社(2023年3月時点)
 出典:厚生労働省「くるみん認定、プラチナくるみん認定及びトライくるみん認定 企業名・都道府県別
 一覧」

2.えるぼし認定の背景

「えるぼし」の「える」は、L(Lady/Lead/Laudable)、Ladyが星のように輝く社会に由来します。
女性活躍推進法※に基づく認定制度で、女性活躍の推進に積極的に取り組み、一定の基準を満たした企業を厚生労働大臣が認定します。創設直後の2016年5月末は74社でしたが、年々増加し、2025年3月時点で3,458社に達しています。また、2020年6月1日には上位制度「プラチナえるぼし」も創設されました。

▼女性活躍推進法の法改正(一般事業主行動計画の義務対象の推移)
 ・施行当初は「常時雇用する労働者が301人以上」の企業に、一般事業主行動計画の策定、届出、周知、
  公表を義務付け。
 ・2022年の改正で、義務対象を「101人以上」に拡大。
 ※従業員100人以下の企業は引き続き努力義務ですが、えるぼし認定を申請する場合は行動計画の届出、
  情報公開が前提となります。

【主な評価の観点】
 ・採用における男女均等と女性採用比率
 ・管理職に占める女性の割合が産業平均以上
 ・女性の平均勤続年数が男性の7割以上
 ・労働時間が直近期の全月で月45時間未満
 ・一般事業主行動計画の策定・届け出
 ・実績を「女性の活躍推進企業データベース」に 毎年公表

【認定件数】
 ・えるぼし:3,458社(2025年3月時点)
 ・プラチナえるぼし:95社(2025年9月時点)
 出典:厚生労働省「女性活躍推進法への取組状況」

3.ユースエール認定の背景

「ユースエール」は若者世代(ユース)を応援(エール)が由来。
若者雇用促進法に基づき、若者の採用、育成に積極的で、残業が少なく有給休暇を取得しやすいなど「働きやすい環境」を整えた中小企業主を厚生労働大臣が認定する制度です。2015年度にスタートし、2016年2月時点では10社でしたが、2024年9月末には1,329社に達しています。

【主な評価の観点】
 ・若年層の一定の採用実績
 ・離職率20%以下
 ・年次有給休暇取得率70%以上
 ・年間取得日数の平均10日以上
 ・月平均残業時間20時間以下

【認定件数】
 ユースエール:1,329社(2024年9月末時点)
 出典:厚生労働省「ユースエール認定制度」

4.もにす認定の背景

「もにす」は「共に進む(ともにすすむ)」に由来し、企業と障害者が共に明るい未来へ進む願いが込められています。
障害者雇用促進法に基づき、障害者雇用に関する取り組みが優良な中小事業主を厚生労働大臣が認定する制度で、2020年4月に開始。2020年度は10社から始まり、2025年6月には545社に達しています。

【主な評価の観点】
 ・法定雇用率の達成、維持
 ・職場のバリアフリー化等の環境整備と合理的配慮の提供
 ・採用後の定着支援と教育、訓練の実施

【認定件数】
 もにす:545社(2025年6月時点)
 出典:厚生労働省「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度) 認定事
 業主」

 各認定制度の詳細は、厚生労働省の公式サイトで最新情報をご確認ください。

Ⅱ.認定を目標にするメリット

「くるみん」「えるぼし」「ユースエール」「もにす」の認定は、形式的な取得に留まらず、企業価値を高める戦略的な取り組みです。労務監査の適正化、制度運用の実効性、人的資本経営の「証」として、次のメリットがあります。
 
 1.女性活躍の推進(えるぼし)
  環境整備を対外的に示し、ジェンダー平等と多様性の向上を実現。
  女性管理職育成のきっかけとなり、仕組みづくりが進みます。
 2.育児支援の強化(くるみん)
  両立支援制度の整備により、安心して長く働ける環境を提供。離職防止、エンゲージメント向上に寄与
  します。
 3.若者雇用の促進(ユースエール/中小企業対象)
  ハローワークでの重点PR、認定企業限定の面接会参加などの採用支援に加え、日本政策金融公庫の
 「働き方改革推進支援資金」による低利融資など経済的支援も受けられます。
 4.障害者雇用の推進(もにす/中小企業対象)
  皆が安心して働ける環境づくりを通じて企業の信頼性を向上。日本政策金融公庫の低利融資等、経済的
  支援の対象となります。
 5.社会的責任の履行(ESG・サステナビリティ)
  各認定は社会課題への積極的な取り組みの証明となり、ステークホルダーの信頼獲得と企業価値向上に
  資します。人的資本開示やESGレポートにも有効です。

おわりに

「くるみん」「えるぼし」「ユースエール」「もにす」は、それぞれ異なる社会課題に対応し、企業の取り組みを可視化、評価する重要なツールです。認定を目標とすることで、多様な人材が活躍できる働きやすい環境づくりが進み、持続可能な企業運営の基盤を強化できます。これらの認定を戦略的に活用し、さらなる発展への一歩を踏み出しましょう。

HRコンサルティング事業局
プロデューサー(開業社会保険労務士) 田邊 良学

(株)日本交通公社(現JTB)に入社。新規事業開発や人事総務系ソリューションを担当。「組織と人財の最適なバランスこそがイノベーションを生み出す源泉」という信念のもと、人財一人ひとりの変革力を引き出し、新しい旅行業界のビジネスモデル開発を推進し、海外危機管理事業等を開発。事業企画から販売まで一貫した製販一体の推進力を学ぶ。
現在はJTBコミュニケーションデザインにて、組織開発ソリューション「WILL CANVAS」を担当。新規事業開発の経験と社労士としての専門知識を融合させて、事業戦略と人事戦略の両面から企業の成長を支援している。
【資格】社会保険労務士(開業)、両立支援コーディネーター、運行管理者資格者(旅客)、海外安全・危機管理責任者、防災士、など。

 

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