近年の<HRテクノロジー✖人的資本経営>という潮流の中、既に多くの企業が社員向けのサーベイを実施しています。「社員意識調査」「エンゲージメント調査」「ES調査」等、目的や呼び方は様々ですが(以下、「サーベイ」で統一)、多くは年1~2回程度実施し、エンゲージメント指標等、結果指標を統合報告書に掲載し、公表する企業も増えてきました。
いうまでもなく、サーベイの結果は経営改善の鍵となる重要なデータの宝庫といえます。しかし、多くの企業はその潜在的な価値を十分に活用しきれていません。本コラムでは、現在の状況と課題を分析し、効果的な活用方法をシリーズでお届けします。今回はその1回目です。
1: サーベイの現状と課題
弊社が以前実施したアンケートによると、企業の61.1%がサーベイを実施しているというデータがあります。これは、従業員の意見を収集し、組織の健全性を把握するための第一歩として重要です。その一方で、せっかく実施したサーベイが活用されているかというと、実施企業のうち「フィードバックや具体的活動が難しい」と感じている企業は78.6%に上り、実際に私たちが企業の人事の責任者とお話ししても、「サーベイ結果は見てはいるが、その結果をどのように活用し、改善につなげればよいかがわからない」という声が多く聞かれます。
2: 効果的なサーベイ活用のメリット
サーベイを活用する意義、主なメリットは以下のとおりです。
■組織の問題発見と改善策の策定
サーベイの結果から具体的な課題を把握し、それに基づく効果的な改善策を実施することができます。
■エンゲージメントと組織文化の向上
社員の意見を尊重することで、信頼と透明性のある組織文化を構築し、社員のエンゲージメント、貢献意欲を高めることができます。
■データを活用した戦略的意思決定の強化
サーベイから得られるデータをもとに組織の状態を客観的に評価し、戦略的な意思決定に活用することで、変化する市場環境に柔軟に対応できます。
以上の目的をもとにサーベイを実施します。そして通常主幹部署からの発信文書という形で、サーベイの回答依頼を出すケースが多いと思われます。
3: サーベイ実施時のメッセージ発信のポイント
ここで重要なことは、サーベイの「回答率」をあげるだけでなく、「協力度」(サーベイに協力的に回答してもらう)を高めるために、サーベイの実施前や回答依頼の発信時におけるポイントを押さえることです。
①社員目線でのサーベイ実施の目的をきちんと伝える
例えば、
✕ エンゲージメント向上に活かす
◯ 働きやすい環境づくりを目指す
というちょっとした表現の違いだけでも、受け止める社員の印象は変わります。
②「心理的安全性」が担保されていることを伝える
個人の回答データは秘匿が保証されていること、及び、その上で、自由記述にもきちんと目を通すので忌憚のない意見を出してほしい、というメッセージを伝えます。
③社員にもサーベイの結果を開示する旨を伝える
結果が共有されるか否か、すなわちフィードバックのある・なしの見通しによって、社員のサーベイに向き合う姿勢は大きく変わります。
弊社でもサーベイを通じた組織開発コンサルティングによる伴走支援を実践しています。その際、最も重要視しているのが、分析もさることながら、上記③にあるとおり、いかにその結果を社員に適切にフィードバックするかです。ここでは、弊社がこれまでの経験で得たフィードバックの実践の考え方をお伝えします。
4: フィードバックにおける3つのパターン
フィードバックする際には、「誰に」という点で大きく3つのパターンが考えられます。
(1)「経営層」に対するフィードバック
中堅企業や大企業においては、サーベイの実施は、経営企画や総務・人事が主幹することが一般的ですが、そうした主幹部署が「経営層」に向けてフィードバック、すなわち「報告する」、というのが第1のパターンです。
ここでの経営層向けフィードバックは、経営的、すなわち全社的な観点から全体傾向を示し、課題を提示する、という内容が中心となり、その点では、本来最優先で取り組むべきアプローチと言えます。
ただ実際には、経営からのミッションとは言え、経営にモノ申す立場にはなりえず、結果として報告書自体は経営層に対する『配慮』に重きが置かれ、報告会では『無難に乗り切る』ことが最大の目標となってしまう、という心情も理解できないではありません。そんな中でも、「いかに本質的な課題に迫ることができているか」が最も大事なことですが、皆さんの会社ではこうした原点を見失っていないでしょうか?
なお、このようなパターンでも結果データやレポートをイントラに掲示し、社員がアクセスできる環境を用意している企業もあり、最低限そこまではやっていただきたいと考えます。
(2)「経営層」に加え、「管理者層」に対するフィードバック
HRテックとしてのサーベイ専門ツールを導入している企業においては、機能活用の一環としてデータの閲覧権限を管理者に付与し、「自組織のデータを自己分析し、対策を講じて下さい」という依頼を各管理職に投げかけ実践を促す、という会社も多いと思います。弊社が展開するWILL CANVASにもそうした「閲覧権限」の付与によって、管理者には配下の組織のデータを直接見ていただく環境を提供しています。
ただ、管理者がそれをどう受け止めて改善の取組みにつなげようとするかどうかは管理者次第で、そこには取組み姿勢の差が表れてしまうのが実体です。
とはいえ、管理者が直接データに触れ、分析・考察する機会を提供するという点では必要な取組みといえるでしょう。
(3)「メンバー」に対する『サーベイ・フィードバック』
(2)がきちんとできた部署が、次の展開として所属メンバーに対してフィードバックするというのが3つ目のパターンです。そしてその際には「単にデータを開示する」だけでなく、「ありたい姿に向けて今何が問題でどのような取組みをすることで組織として成長していけるか」を話し合う取組みが有効です。これを『サーベイ・フィードバック』といい、弊社でもその支援を行っています。
このように(1)のみ実施している企業は(2)、その次は(3)とフィードバックの展開範囲を広げていく試みが重要です。これをおろそかにすると、
「せっかくサーベイに協力して回答したのに、結果がどうなっているのか何も知らされない」
「会社は社員の回答結果をどれだけきちんと受け止めてくれているのか?」
と、社員の不満や不信のもととなりかねません。
「サーベイの結果をエンゲージメント向上につなげる」ためには、分析・考察し、有効施策を講じるというのは当然ですが、その前にやるべきことは「社員にフィードバックすること」で、実際の施策はその先にあります。
ぜひ今回の内容をヒントに、あなたの会社で実践しているフィードバックを振り返り、(3)を目指して展開を計画し実践してください。
HRコンサルティング事業局
シニアコンサルタント 森田 朋宏
大学卒業後、出版社勤務を経て独立系コンサルティング会社に転身。中堅・中小企業の組織・人事改革、退職金・企業年金制度改革等のコンサルティング、管理者研修等、幅広い支援を行う。
その後、メガバンク系シンクタンクに転職し、経営戦略を実現するための組織課題の抽出、および課題解決のための人事制度構築をベースに、大手上場企業から中堅企業の幅広い業種においてコンサルティング活動を実践。
近年は人的資本経営に着目し、ISO30414リードコンサルタント/アセッサーの資格を取得。
会社のビジョンを知る社員は「半数」の現実
外部環境の変化が激しい今、社員が会社で働く際のよりどころとなる企業理念やビジョンの浸透が、今まで以上に重要になります。
ここでは「会社のビジョンに関する意識調査2020」の結果から、ビジョン浸透の実態と社内に浸透させるためのポイントについて探ります。
- 人と組織
- 2025/05/27