サーベイ活用によるエンゲージメント向上のカギは「フィードバック」にあり<第2回> ~インサイトを引き出すサーベイ結果分析~

1回目のコラムでは、サーベイ活用のポイントについてご紹介しました。その要点は、サーベイを実施して終わりにせず、きちんとフィードバックすることでした。
2回目は、サーベイ結果の分析方法に焦点を当て、データの持つ潜在的な価値を引き出すための効果的なアプローチを探ります。多くの企業で既にサーベイを実施し、独自の分析を行っているところも多いと思いますが、ここでは一定のセオリーにもとづき、本質的な課題に迫るポイントをお伝えします。

1:サーベイの現状と課題

(分析のポイント)
●分析の進め方としては「全体俯瞰→経年→属性別→部門別」という流れが基本です。
●表面的なスコアの高低だけでなく、設問間の相関など深く切り込むことで洞察(インサイト)を引き出すことができます。

俯瞰的分析

サーベイ結果をまず全体的に把握することが重要です。組織全体のトレンドや大きな傾向を理解することで、どのような共通課題が存在するのかを明確にします。全社的なエンゲージメントスコアや満足度の平均を把握することで、組織の健康状態の全体像を描き出すことができます。

経年比較分析

過去のサーベイ結果と現在のデータを比較することで、組織の変化や成長を可視化し、その背景を探ることができます。経年での変化を分析することで、施策の効果や新たな課題の顕在化を確認することが可能です。

属性別詳細分析

部門別、役職別、年齢別など、属性ごとに詳細な分析を行うことで、特定のグループが抱える課題やニーズを特定します。これにより、よりターゲットを絞った施策を展開することが可能になります。

部門別分析

上記は全社の観点による分析でしたが、最後に部門別傾向をみます。当然ながら部門によってスコアの高低は差があり、その背景を探ることで部門特有の課題を掘り下げていくことができます。

自由記述の重要性

サーベイにおける自由記述は、定量データでは表れない従業員の声を反映しています。これらの意見は、組織の風土や文化、従業員の感情面での洞察を深めるために重要です。数値だけでは見えない部分を補完し、全体像をより立体的に理解することができます。

自由記述の分析では、キーワードの抽出やテーマごとの分類が有効です。自然言語処理技術を用いたキーワード分析なども活用することで、従業員の潜在的なニーズや不満を浮き彫りにすることができます。これにより、組織が直面している根本的な問題を明らかにし、改善策を検討するための貴重な情報を得ることができます。また近年はAIを使って定量データ(スコア)と自由記述との関連性を探ることも可能となりました。

2:サーベイ結果の分析例

以下では、A社のサーベイ結果をサンプルに、弊社の提供する意識調査ツール <WILL CANVAS>に基づき、5つのカテゴリにおける組織全体の経年データの考察例を解説します。なお、5つのカテゴリには最も簡易なレベルにおいてそれぞれを構成するトータル28の設問がありますが、ここでは割愛しています。

■組織全体のスコア(他社平均との比較)

■経年(3ヵ年)の推移

以下、分析の一例を示します。

【ビジョン】
「2025年度のスコアは72.4で、他社平均の65.0を上回っています。また、経年データを見ると、2023年度の65.3から2025年度の72.4へと着実に向上しています。この結果は、御社のビジョンが社員にしっかりと浸透していることを示しており、組織全体でのビジョン共有の努力が実を結んでいることを表しています。」

【風土】
「風土に関しても、2025年度のスコア69.1は他社平均の57.0を大幅に上回っています。経年データでは、2023年度の68.2からの微増が見られ、継続的な改善が図られていることが伺えます。これは、組織文化の向上に向けた取り組みが効果を発揮していることを示す良い兆候です。」

~以下、他のカテゴリについての分析が続く(省略)~

3:インサイト(洞察)を引き出す

A社の事例の中で、部門別傾向において、「スコアの高い・低い部門のスコア差にある背景は何か」に着目して設問ごとのスコアをみてみると、現場の状況に関して以下の傾向の違いに気づきました。

<会社では、周囲の人と異なる意見を言いやすい。>

部下が意見を言いやすい職場では、上司が部下の意見を尊重し、積極的にフィードバックを求めています。一方、意見を言いにくい職場では、上司が一方的に指示を出すことが多く、部下が萎縮してしまう傾向があります。

<私は、失敗しないことよりも挑戦を歓迎する風土である。>

現場の状況: 上司が部下のチャレンジをサポートし、失敗を恐れず新しいアイデアを試みることを奨励しています。逆にスコアが悪いところでは、上司が失敗を厳しく批判し、部下が挑戦することを躊躇する雰囲気が漂っています。

<私は、会社の未来に希望を持っている。>

現場の状況: 上司がビジョンを部下と共有し、共に未来を描く姿勢を持っている場合、部下は会社の将来に対する期待感を抱きやすいです。反対に、上司がビジョンを一方的に押し付ける職場では、部下が将来に対する不安を感じることが多いです。

高いスコアの部門では、上司が部下の立場に立ってコミュニケーションを取ることで、意見を言いやすい雰囲気が生まれているようです。これにより、部下は積極的に意見を出し、挑戦を恐れない文化が形成されています。具体的な例として、ある部門では、定期的に「意見交換会」を開き、自由に意見を言える場を設けていました。そこでは、上司が部下の意見を真摯に受け止め、実際の施策に組み込むこともあります。

一方、スコアが悪かった部門では、上司が指示を一方的に出す「上から目線」のアプローチが目立ちました。このため、部下は萎縮してしまい、意見を出すことをためらう環境となっていました。特に、上司が失敗を厳しく指摘することで、部下はリスクを避けるようになり、結果的に組織全体の停滞を招いていました。このように、上司のアプローチが部門のスコアに大きく影響することがわかります。部下の視点を理解し、共に成長する姿勢を持つことで、組織全体のエンゲージメントを向上させることが可能となります。

以上のように、データを分析するにあたって、より本質的な課題の設定に向けて「インサイト」を引き出すところまでをぜひやっていただきたいと思います。

HRコンサルティング事業局
シニアコンサルタント 森田 朋宏

大学卒業後、出版社勤務を経て独立系コンサルティング会社に転身。中堅・中小企業の組織・人事改革、退職金・企業年金制度改革等のコンサルティング、管理者研修等、幅広い支援を行う。
その後、メガバンク系シンクタンクに転職し、経営戦略を実現するための組織課題の抽出、および課題解決のための人事制度構築をベースに、大手上場企業から中堅企業の幅広い業種においてコンサルティング活動を実践。
近年は人的資本経営に着目し、ISO30414リードコンサルタント/アセッサーの資格を取得。
 

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