前回のコラムでは、サーベイ結果の深堀り分析について解説しました。今回は、いよいよサーベイフィードバックの段階に入ります。
フィードバックはサーベイ活用の中で最も重要なステップの1つです。適切なフィードバックを行うことで、組織の課題を共有し、改善に向けた行動を促進することができます。
1.サーベイフィードバックとは
サーベイフィードバックとは、組織開発の取り組みの一環として、実施されたアンケート調査(サーベイ)の結果を、組織のメンバーに対して共有し、その内容について対話を行うプロセスです。このプロセスを通じて、組織の現状や課題を可視化し、メンバー全員で共通認識を持ちながら、具体的な改善策や行動計画を策定することを目的としています。
サーベイフィードバックの本質は「情報共有」をベースとした「対話」です。
-経営環境の急激な変化に対応しきれていない
-従業員の価値観や働き方の多様化が進み、コミュニケーションがとりづらくなっている
-組織の課題が複雑化し、トップダウンだけでは解決が難しくなっている
特に現在、多くの組織が上記のような状況下にあり、サーベイを実施した後の「対話」の重要性はますます高まっているといえます。
したがって、特に次のような傾向を持つ組織には、ぜひサーベイフィードバックを実践いただくようお勧めします。
-「社内アンケートをやっても何も変わらない」という諦めムードが蔓延している
-部署内や部門間の連携が悪く、組織のセクショナリズム化、あるいは個人のサイロ化が進んでいる
-若手社員の離職率が高く、人材の定着に苦慮している
-管理職が部下の本音を把握できていない
-組織の強みや弱みが明確になっておらず、改善の方向性が定まらない
-社員のモチベーションが低下しているが、その原因が特定できていない
2.サーベイフィードバックの方法
サーベイフィードバックは、以下の3つのステップで構成されています。
①見える化【What】
サーベイを実施し、その結果をもとに組織全体や年齢・職位毎の傾向を知る
②ガチ対話【So What】
データをきっかけにガチ(本音で)対話し、データの裏にある本質的な課題を見出す
③未来づくり【Now What】
ガチ対話をもとに、今後に向けた組織のチャレンジを決める
これらのステップを通じて、単なるデータの共有にとどまらず、組織の本質的な課題の特定と、具体的な改善アクションの策定まで行います。
3.サーベイフィードバックの進め方
サーベイフィードバックを効果的に行うためには、以下の点に注意して進めることが重要です。
重要なポイントとして、この取り組みは10人前後が望ましいため、課やチームを最小単位として実施することをお勧めします。もし人数が多い場合は、複数のグループに分かれて実施し、その後結果を統合するなどの工夫が必要です。例えば、30人規模の部署であれば、3つのグループに分けてフィードバックセッションを行い、各グループの代表者が集まって全体の方向性を決定するといった方法が考えられます。
このように、組織の規模や構造に応じて柔軟に運営方法を調整することが重要です。
サーベイフィードバックの具体的なプロセス(90分の場合)
実際にサーベイフィードバックの当日は、以下のような大まかなプログラムを念頭に置きながら進めていきます。なおこちらは基本パターンですが、例えば、対話の必要度が高い場合は、「データについての話し合い」のウェイトを高くする、等、必要に応じてアレンジしてください。
ファシリテーターの重要性
サーベイフィードバックを効果的に実施するためには、ファシリテーターによる「ファシリテーション能力」が極めて重要です。例えば課の単位であれば通常、管理職(課長、チーム長など)がファシリテーターを務めることが一般的ですが、理想的には管理職とは別にファシリテーターを置くことが望ましいと言えます。 その理由は、管理職がファシリテーターを務める場合、チームの当事者として判断や意思決定を下す立場にあるため、中立的な立場でのファシリテーションが難しくなる可能性があるからです。
すなわち、メンバーの意見を積極的に取り入れるボトムアップの要素と、管理職として意思決定するトップダウンの要素の両立が求められるため、これらの役割を分離することで、より効果的なフィードバックセッションを実現できます。独立したファシリテーターを置くことで、管理職は参加者の一人として自由に意見を述べることができ、同時にメンバーも管理職の影響を受けずに率直な意見を表明しやすくなります。これにより、より深い洞察と建設的な対話が可能となり、組織の本質的な課題の特定と改善策の策定につながります。
次回は、「ファシリテーションのポイント」として、効果的なサーベイフィードバックを実現するためのファシリテーターの役割や具体的なテクニックについて詳しく解説します。ファシリテーターがどのように中立的な立場を保ちながら、参加者全員の意見を引き出し、建設的な対話を促進できるか、その方法をお伝えしていきます。
HRコンサルティング事業局
シニアコンサルタント 森田 朋宏
大学卒業後、出版社勤務を経て独立系コンサルティング会社に転身。中堅・中小企業の組織・人事改革、退職金・企業年金制度改革等のコンサルティング、管理者研修等、幅広い支援を行う。
その後、メガバンク系シンクタンクに転職し、経営戦略を実現するための組織課題の抽出、および課題解決のための人事制度構築をベースに、大手上場企業から中堅企業の幅広い業種においてコンサルティング活動を実践。
近年は人的資本経営に着目し、ISO30414リードコンサルタント/アセッサーの資格を取得。
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